日本は覚醒剤天国だ。それは間違いのない事実だ。
それは覚醒剤を捌くことを仕事として始めて一番最初に驚いたことでもある。
この世の中にはこんなにも覚醒剤が蔓延しているのか…。
大きなショッピングモールなどに行けばその中に必ず覚醒剤使用者はいるだろう。
あなたの住んでる町にも、普通そうに歩いている人も当然のように覚醒剤を使用していたりする。
だが俺は自分自身がまさか覚醒剤にハマるとは
むしろそれ以上に狂い、逮捕を重ね、懲役を繰り返すとは夢にも思わなかった。
今俺は、初めてシャブをやめようとした時からちょうど10年ほど経つ。
少しは自分を取り戻し、シャブの呪縛から抜けた気がするが10年かかった。
長かったが、俺の人生はこれからだと信じている。
はじめて幻聴が、それも生半可なものじゃない強烈なものが聞こえだした時
その幻聴が四六時中鳴り止まなくなった時
幻聴を幻聴と区別できなくなった時
注射器を片手にシャブを打ち込むのを止められなくなっていた時
俺はそんな自分自身を受け入れられなかった。
唐突に聞こえる死ね!と言う声。鳴り止まない怒号のような怒鳴り声。俺にずっと語りかける声。隣の部屋から俺のことについて話している声。
シャブを打ち込んで数時間以外はずっと聞こえ続ける。
それでも俺はシャブを打ち続け、売り続けた。
孤独に陥り、そんな心のすき間を埋めるようにシャブを打ち続け、いつしか聞こえてくる声が唯一の心の拠り所になっていった。
俺はシャブをやめることができなかった。
完全に覚醒剤に囚われていった。
何度も自分と向き合い、人と関わる中で少しずつ自分を取り戻していった。
あの時の自分は何だったんだろうか。
一つ言えることは自分の中ではそれは紛れもない現実だったってことだ。
マトリが窓ガラスを叩き割り突入してきた時も、まだ俺は現実と妄想の狭間を彷徨っていた。
人は過去を消すことはできない。
過去を受け入れ、未来を探し、それでも生きていかなければならない。
今自分にあるもの、それは今までしてきた経験と、消すことのできない過去を背負った自分そのもの
それしかない。
人はどん底に落ちるとそこから這い上がることはとても困難で、一歩を踏み出すことすらものすごい時間と力が必要になる。
その手助けをいつしかできる未来が来ると信じている。
シャブに囚われ続けた男でも少しは変われる。
だから人は諦めてはいけないと俺は思っている。