パンダ苑には橋を渡って入る。
その橋の手前にある数軒のお土産屋も、私が既にパンダのぬいぐるみを持って歩いているので、売り込みは諦めたらしい(笑)。殆ど声をかけてこなかった。
橋の手前から入り口を見ると、真正面には『大熊猫苑』と書いた文字が見える。いよいよ中に入れると思うと、前の晩の大雨で増水している川の水の音さえも私の耳には入ってこなかった。
目の前では6~7人の中国人観光客のグループが写真を撮っていた。自分勝手な考えだけれど、早く退かないかなぁと思って彼らを見ていた私だった。なるべくならば、誰も邪魔しない状態で写真を撮りたかったからだ。しかし、なかなか退きそうにもないし、後ろからも人が来たので諦めて写真を写した。
大熊猫(パンダ)苑の門は鉄製の柵だけ。中央は車用らしく閉まっていて、人間用はその脇の細い入り口から入るようになっていた。
貴重な動物が居るわりには、簡単なセキュリティのような気がするけれど、人専用の入り口では、消毒薬を染み込ませたマットが敷いてあって、必ずそこで靴の底を押し付けて消毒してから入るように、と全さんから注意があった。
確かに人間が持ってくるウィルスほど怖いものはないのかもしれない。門を潜ると、左へと道が折れていた。その両脇には笹がびっしりと生えていて、如何にもパンダの住処という感じが醸し出されていた。あたかもその笹の間からパンダが顔を出してきそうな…。
笹に囲まれた通路を通り抜けるとパッと目の前が開けて、広場のようになっていた。左手前方に建物が見えて、一部ガラス張りになっている。そこに人が数人集まっていたので、てっきりそこに赤ちゃんパンダでも居るのだろうかと思い、周りも見渡す間もなく、一気にそこへ進んで行った。
しかし、ガラスの向こうにあったのは、包丁とフスマ(ふすまとは小麦粒の外皮の部分で小麦ブランとも言う)を固まらせたようなものが置いてあっただけ。これってもしかして、パンダの食べ物?って思って見ていたら、やはりそうだった。近くの壁に描かれているパンダの絵にも、そのおやつが描かれていた。後は定番の?リンゴなどが少々。

もし…私がその広場のところで右手に進んで行ったら、パンダのおやつを見た後、反対側を見たとしたらパンダの姿を目にしていたと思う。しかし、あの時の私は舞い上がっていて、いつもの冷静さを欠いていた。周りの状況が余りにも見えなさ過ぎたと思う。その証拠に帰り際には、行きに私が気がつかなかったところにパンダが居座っていたのだから。

