いつだったか、15年か20年前か
うちのアパートの隣の部屋に
若い女の子が引っ越してきた。

時々お母さんが様子をみにきて、
たまに泊まったりしていた。

その女の子は何もしてなくて
ずっと家にいる。
引きこもりだ。

10代かと思ったが、
19や20くらいの大人かもしれない。
すこし色気がある。

顔もかわいくて
子供っぼく両耳のうえで長い髪を結んでたりしていて、メガネをかけていた。
オタクっぽい女子。

それなのにお母さんがすごく元気な人で、
階段をダダダダと駆け上ってくる。

何が楽しくてそんなに元気なんだろう
と、元気のない私は思った。

あんなに元気なお母さんなのに
娘はなんで引きこもりなの?

お母さんが部屋に入ってすぐ、
バシッと娘の頭をたたく音がした。

想像だが、
食べた食器を洗わずどこかにかくしてたとか?

頭をたたかれて反論するわけでもなく
おとなしくしていた。

女の子は夜中の3時にそうじをしだしたことがある。
夜中の3時にゴミをすてにいくのを、心配で
わたしはずっと窓からみていた。

さすがに夜中の3時に掃除機の音はアパートじゃダメだろうとわたしは壁をドンとたたいたら、
ピタッとしずかになった。

その子はなんだか変だった。
掃除機をかけるとかゴミ捨てにいくとか、
ひたむきにやるのは動きは早いが、、

ポケッとしていて喋らなくて、
頭が悪いっていうか、知的障害っぽい。

お母さんの車に乗ってどこかに出かける時は、
すごくニコニコして嬉しそうだし、ニコニコしすぎて、なんか変だな、って感じ。

お父さんが下の駐車場にきていたことがあった。
お母さんが部屋まできて、お父さんは上がってこない。

どうやらお父さんと何かあってここに部屋をかりてるのか、女の子はすごく怒っていた。

わたしは引っ越して来た人がどの辺からきてるか
わかることがある。
この一家は、近所の3階建てのビルの写真館の一家だ。

ガラケーが流行り写真の仕事も少なくなったと思う。やはりのちにすぐそのビルを売却して引っ越して行った。
もちろん、その女の子もいなくなった。

わたしと外ですれ違いざま、
わたしが
「こんにちわ」と言ったら、女の子は即答で
「こんにちわ」と返してくれた。

それが、すごく嬉しかったようで
お母さんがまたダダダダと階段を登ってきて
部屋に入って

こんにちわ
こんにちわ
と話していた
いつまでも、こんにちわ
こんにちわ、
と言っていた。

なんか変な子だから
ろうあ者かと思っていたが
聞こえるししゃべれるんだよね

それから
ガラケー時代で
メル友っていうのがあり

「メル友はこれからも大事にしなさいよ」

とお母さんが言っていた。
そうよ、ネットでもいいから
お友達はいた方がいい。


それにしてもアパートなのに
お母さんがお風呂からあがって
何十分とマッサージ椅子の音がしていた。

羨ましいけど
アパートだからなあ
でも欲しいなあ


写真館を廃業したら
あのお母さんは何の仕事するだろう

スーパーのレジとかは似合わない
バタバタしてるから外回り向きか
社内でテキパキやるタイプだな

あの女の子にはよい手本となるでしょう