【あらすじ】
源氏の氏神は一瞬の間に、矢矧の宿の浄瑠璃に牛若丸の文を届ける。牛若丸の文を読んだ浄瑠璃は、病に伏す牛若丸を思い、矢も楯もたまらず、母にも告げず牛若丸のあとを追う。れいぜい唯一人(ただひとり)を共にして、つらい旅を続け、やっと蒲原の宿へ着く。二人が荒れた辻堂で雨をしのいでいると、箱根権現が返信した、老尼公(ろうにこう)が現われ、十四、五歳の若者は死んだと告げる。


【驚きと感動】
れいぜいを共にした浄瑠璃が、長者屋敷を出る際の長者宅の外壁の装飾がすばらしい。

護衛のいない浄瑠璃とれいぜいを雪女の生まれ変わりだと勘違いした旅先の住民たちは、誰も二人を泊めてくれない。住民たちが必死で窓を閉める描き方は見どころだ。

また、ここから、平安時代末期に少人数で旅をすることは極めて危険であったことが分かる。鎌倉時代の西行も江戸時代の芭蕉も少人数で旅をしたことになっているが、実際は、芭蕉は本当に少人数で旅をしていたのに対し、西行は、かなり大勢の護衛を伴って旅をしたそうである。