魂の語りべ山出 光文(やまで みつふみ)です。


「グリップを左右に回して」

私は必死にグリップを右に回した。「重い」

一回右方向にグリップを回しただけなのに重さで回らず手がグリップから離れそうになった。

嫌な思いが脳裏に走る。

門真のシミュレーションテスト。ハンドルを回すごとに何度手が離れた事か。

気を取り直して今度は左方向にグリップを回そうとすると、肘が体に当たって回す事が出来ない。

何とか回そうと何回頑張っても上手く行かない。

「座席の下にレバーがあるから座席を下げてみろ」

腕を下に伸ばしレバーを探す。あった!


レバーを思いっきり引っ張ると座席が良い位置に下がった。

そうすると重いと感じはあるもののスムーズにハンドルを回す事ができた。

嬉しさ一杯の感情に浸っていると横から「車はハンドルを回すだけでは動かないぞ。

ブレーキアクセルも同時に操作しないと運転とは言わない」


続く。本日もお読み頂きありがとうございました。感謝。

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「右手でハンドルグリップ。左手でアクセルブレーキ。そしてロックもしなきゃならない。
 
出来るだろうか」と教習車がコースを進む。

あれもこれも考えていると「よし」という声が聞こえ車が出発地点に止まり、

教官がサイドブレーキをグイと引いた。


「次は君の番。運転を交代する。運転席へ」と言って教官が車を降りた。

私が運転席に座ると、教官はサイドブレーキをもう一度引いた。

何のためにそんな事をするのか分からぬまま教官が突然「キーを回して」と指示をした。

何も考えずに反射的にキーを回す。するとエンジンがかかった。心臓がドキドキ。

「ハンドルのグリップを右手で握る」

グイッとグリップを握ると心臓の鼓動が指先からグリップに伝わる。

これだけで心が舞い上がる。一瞬時が止まったかの感覚に陥った。

グリップを握ったままの私を見かねて教官が「グリップを握っただけでは運転できんよ」

と語気を強めた。そして・・・。



続く。本日もお読み頂きありがとうございました。感謝。


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「私に教官と同じ事が出来るだろうか」と心の中で思いながら目の前のコースを見ていた。

しかし、本当は前を見ている振りをしてハンドルと左手の器具の操作を注視していた。

「カチッ」という音に気づく。前を見ると車が信号の停止線で止まっていた。

教官を見ると器具から手を離していた。「あれ」と思っていると

「前を見る事に集中して」教官が私の本心を見抜いている。

「はい」とは言ったものの頭の中は「カチッ」という音がどこからしたのかを

探していた。

信号が青に変わる。またカチッという音がした。器具を前に押すとブレーキロック

が外れ音がする事が分かった。車が長時間停止する場合、手の負担を少なくするために

ロックが掛かる仕組みになっていた。そのロックを掛けたり外したりする時の音だった。


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教官を見るとハンドルの右側にグリップが取り付けられ右手はそこを握っていた。

左手は床から伸びている器具を握っていた。

母の運転で何度も車に乗ったとは言え、初めて母親以外の運転。

初めて見る器具がついている車に乗る。そう思っただけで新たな緊張が体に走った。

教官は運転しながらコ‐スに沿ってスイスイとハンドルを回す。

ハンドルを回しながら左手の器具を前に押したり後ろに引いたりしていた。

器具を後ろに引くとアクセル、前に押すとブレーキになった。

「私に教官と同じ事が出来るだろうか」と心の中で思いながら目の前のコースを見ていた。


しかし、本当は前を見ている振りをしてハンドルと左手の器具の操作を注視していた。

「カチッ」という音に気づく。前を見ると車が信号の停止線で止まっていた。

教官を見ると器具から手を離していた。「あれ」と思っていると

「前を見る事に集中して」教官が私の本心を見抜いている。

「はい」とは言ったものの頭の中は「カチッ」という音がどこからしたのかを探していた。



続く。本日もお読み頂きありがとうございました。感謝。


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「ドアを開けて助手席に乗って」

教習開始前に先程の口ひげの教官が降りてきた。

恐る恐る助手席側のドアを開け乗り込もうとしても足が上手く上がらず四苦八苦。

いつもなら自宅の車の助手席には簡単に乗り込むにもかかわらず、

緊張のためか中々座席にさえたどりつく事ができない。

腕の力を使って何とか足を車内に入れ勢いで座席に座った。


ホッとしていると「シートベルト」と言いながら教官がドアを開け車に乗り込んできた。

シートベルトを伸ばす事は出来てもカチッとベルトの先端をはめ込む事が出来ない。

先端をはめ込めず何度もシートベルトを伸ばしていると

「シートベルトを伸ばして。わしが先端をはめるから」

見かねた教官の助けを見てやっとシートベルトをする事ができた。

「先ずはわしがコースを一周して、次はお前が運転してもらう。わしが横にいるから大丈夫」

そう言って教官はキーを回しエンジンをかけた。


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予約から1週間後 初めての自動車教習の日。教習所に向う間母の運転を

助手席から固唾を呑んで凝視する。

ハンドルを大きく動かさずにスイスイと操作する姿を見て手が汗ばむのを感じた。

教習所に到着。受付を済ませるとカルテを渡され教習コースへと向かう。

そのカルテには番号が押されてあった。30番。

その番号が今日乗車する教習車番号だった。


コースをきょろきょろしていると私の目の前で教習車が止まった。

丁度教習が終わりコースから戻ってきたところだった。

両側からドアが開き、助手席から降りてきたのは口ひげを蓄えた中年男性。

運転席からは足に障害のある女性だった。

見るからに教官と分かる男性がその女性に大声で声を掛けた。

「次回から路上。もう少しだ。頑張れ」

そう告げると私の方に振り返り尋ねた 「次は君か。初めてか」

「はい。そうです」と答えると

「最初は助手席に乗ってもらうから。ちょっと待ってて」と言って事務所に戻っていった。

事務所に戻る階段を駆け上がる音を聞きながら心臓の鼓動が高まった。


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母の送り迎えの手間を考えて家から車で10分程の教習所に決めた。

門真の教習所での経験から免許を取るまでかなりかかると実感したのも決め手となった。

教習申し込み当日、母の運転で教習所に向かう。

車から降りて受付に。受付に行くと教習の流れの説明を受けるため応接室に通された。

中へ入ると所長らしき中年男性が腕組をして座っていた。

入ると「付き添いの人はいるか」と聞かれ「はい」と答えた。

「呼んできて」というと職員が駐車場の母の元へ。

母が腰掛けるやいなや所長らしき男性が私たちに話し始めた。


内容はというと

「第一段階から第四段階(路上走行)そして最終試験まで普通なら○○週間位かかり費用

は○○円、

しかし私の場合はそれ以上に期間も費用もかかることを覚悟して欲しい」という事であった。

母は「分かっています」と答えると話し合いは終わった。

私は「第一段階~第四段階?」「期間と費用がかかる?」

何がなんだか分からぬまま応接室を出て指示通りに教習の予約をして

教習所を後にした。


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部屋から出て受付に行くと男性がうつむきながら手に持った紙を見て私に

「手動式の教習車があるのはこことここ。後は自身で選んでそこに連絡して下さい」

私に伝えている間私の方を見ようとはしなかった。下を向いたまま。

眉間にしわを寄せうねり声を上げながらぽつぽつと私に話した。

彼はその書類を片手で私の前に差し出した。受け取れと言わんばかりに。

私は差し出された手紙を受け取った。受け取ったと言うより彼の手から手紙をもぎ取った。

「くそ!やってやる」と胸の中で私は叫んでいた。


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車の中で、これは父親に嵌められたのか 自問自答する私。

そうするうちに門真自動車教習所に到着。

受付を済ませ指示された場所に行くと、ゲーム機のようなものが置かれていた。

椅子に腰掛けると目の前にハンドルがあった。


「ハンドルを両手で握って」と指示がありハンドルをギュと握る。緊張の一瞬。

「思いっきりハンドルを回して」と言われると訳も分からずハンドルを回す。

回すといっても途中から左手が言うことが利かず右手一本でハンドルを回す。

重い。右手一本に負荷がかかり、痛みが肩から指先に走る。


「止め」の指示で右手を思いっきりハンドルから離した。思わずふぅとため息が出た。

次は画面に電源が入ると絵が出てきた。えっと思っていると

「道路に沿ってハンドルを回して人が出てきたらブレーキランプを押して」と指示が。

今度はシュミレーションテスト。道路を運転しながら、突然道端から人が飛び出して

きたらブレーキ。信号が赤になると停止。青で発進。

右手でハンドルを握り、左手はブレーキランプの上に。右手でハンドルを握ると絵が進みだす。

信号が見えた。赤だ。ブレーキ。しかし横断歩道の手前で止まる事が出来なかった。

横断中の人を轢きかける。信号が青に変わった。発進。

急カーブに差し掛かる。ハンドルを回すも回し加減が分からず脱輪の連続。

直進に変わるとすぐさま人が飛び足した。ブレーキを踏んだものの時すでに遅し。轢いてしまった。

このゲームの中で脱輪、ひき逃げを何回したか分からぬまま止めの合図。

終わった。緊張感から開放され体全体から力が抜けるのを感じた。

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魂の語り部 山出 光文(やまで みつふみ)です。


「光文 ちょっと来い」父親が私を呼んだ。

食卓へ向かうと両親が神妙な顔つきで私を待っていた。

父親が私を呼ぶ時には叱る時以外には記憶にはなかった。

悪い予感を持ちつつ席に座ると父が切り出した。

「明日母さんと門真の教習所に行って来い」「車の免許を取れ。そうすればお前の行動範囲が広がる」

「お金は心配するな」「明日大学は休め」そう言うと父は食事に箸を付け出した。

「車、免許 何それ」と父をみつめながら心の中で呟いていた。

今風に言えば「聞いてないよ~」である。


今まで車というと母の運転で助手席か後部座席に乗るかしか考えたことがなかった。

それが自分が運転するなど想像すら出来なかった。

というより手足に障害を持つ私が運転できるのか?

床に就いてもその事ばかりが頭から離れず寝つきが悪かった。

そして翌朝・・・。

続く。本日もお読み頂きありがとうございました。感謝。