
「桜草の冬日誌」(第二話)
早朝、バラの当番になった真冬の最中(さなか)の、花園は賑わっています。
なにしろバラさんは姿も香りも抜きん出て
目立つ存在です。
色とりどりの咲きかたは、お伽の国のパレード
のようです。
桜草も、はしっこでいつも見上げては、うっとりしていました。
他の皆も、バラさんがどのように慰めの当番を果すのか、とても期待しています。
でも、バラさんはニッコリと優雅に微笑みながら、肩を張ることもなくその時を待っています。
桜草は思います。
「やっぱりバラさんは女王様のようだ。」
感心していたその時、腰の曲がった老婆が厚いストールを深々とかぶり現れました。
そして、悲しそうにポツンと言いました。
「あたしゃ、可愛い孫娘が重い病気だというのに、何もしてやれない・・・。」
その瞬間、花園の花たちの視線が一斉にバラさんに注がれます。
桜草も目を凝らしてみつめます。

すると、バラさんはゆっくりと大きく円を描くように頭を揺らしながら朝露を払いました。
老婆の目はバラに釘付けになります。
そして、近づきながらボソッと言います。
「あぁそうだ、このバラを沢山ベッドの横に
飾ってあげよう・・。」
そう言うと傍らにある誰かが忘れていった鋏(はさみ)を拾い上げ、次々にパチンパチン!とバラを摘み取った老婆の深い皺(しわ)の奥の瞳は、悲しみから輝きに変わっていました。
老婆は園を去り、残ったバラさんは花がなくなり、あの華やかさは消えてしまいました。
でも、残された緑の葉の上の朝露が、冬の柔らかな光を受けてキラキラ輝き、バラさんを一層美しくしていました。
桜草は思わず「うわーっすてき!」と感嘆の声を上げました。
(三話へ続く)


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