2月26日に『第89回アカデミー賞』の受賞作品が発表された。エマ・ストーンによる主演女優賞、主題歌賞、作曲賞、美術賞、撮影賞の最多6部門を受賞した。
同作品は、『セッション』のデイミアン・チャゼル監督最新作、圧倒的音楽×ダンスで贈る極上のエンターテイメントの”ミュージカル”映画である。
まず、タイトルに言及しておきたいが、『ラ・ラ・ランド』という邦題にはもったいなさを感じる。原題に限りなく近いと思うが、本作はロサンゼルス(LA)が舞台となっており、『LA・LA・LAND』というタイトルには、直接的ではあるがLAという舞台の重要性を示している。カタカナ表記で邦題に成功している例はあまりなく、『LA・LA・LAND』のままでもよかったのかもれない。
さて、簡単にあらすじを説明すると、映画スタジオのカフェで働く女優志望のミア(エマ・ストーン)と、ピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)の恋の物語。ある日、ミアは場末のバーでピアノを弾くセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会い、そして恋に落ちる。
ストーリは、ハリウッド映画の数々の名作へのオマージュを感じさせる王道ラブロマンス。ストレートな作品ではあるが、緻密に構成されたプロットと、ミュージカルによる演出はプログレッシブな世界観を感じさせた。
とにかくセンスがいい。この一言に尽きる。
原題からイメージされるリズミカルな楽曲から、しっとりとした色彩を感じさせる曲まで、ジャンルにとらわれず、作中のあらゆるシーンで演奏され、ミュージカルへのシームレスな流れは見事だった。色彩豊かなファッションや背景シーン。鮮やかな色彩に負けないミアの美しさには、不覚にも何度も恋に落ちてしまったようだった。
さてさて、ここからはネタバレをおそれずに書いていこうかと思う。
デートを重ね、夢を語りながら、ふたりは愛を育んでいくが、セバスチャンは夢よりも大切なものがあるのではないかと、葛藤し、”夢”を叶えるために”夢”をあきらめてしまう。そして、互いの夢に翻弄されながら、ふたりの距離は次第に離れていくことになる。
この物語のテーマはまぎれもなく”夢”である。
夢を追いかけていたふたりだけの世界には、ミュージカルのような”ファンタジー”があった。それは誰しも経験したことがあると思うが、愛し合うふたりの世界観はミュージカルそのものである。
そしてこの作品にはセックスのシーンがないことも重要な点だろう。ミュージカルの中で愛し合う(それでもキスまで)シーンはたびたびあるが、”それ”のメタファーだと強く感じた。もしくは、ふたりが共有している世界(ファンタジー)がそれの上位に位置している高尚なものなのかもしれない。
男性にとってセックスまでの期間は幻想であり、セックス後に至っては幻滅に等しいものがある。つまり、そこを描かないことで夢の中の世界を表現したのではないだろうか。
物語の終盤、ふたりは別れを選択肢、互いの夢を追いかけることになる。そして、数年後(五年後)に成功を収めたふたりは、セバスチャンの経営するジャズバーで期せずして再開する。
数年後の場面から、ふたりが再開するまでの期間、ミュージカルでの演出はひとつもない。夢が叶ってしまい、そして夢を失ったふたりにはファンタジー(夢の中)が機能しなくなったのである。
結婚し、子供が生まれたミアにとって、夢は夢の中にしか存在しない、アクチュアリティのない、儚いものでしかないのだろう。
旦那と食事にでかけて、たまたま立ち寄ったジャズバーでセバスチャンはライブのMCをしていた。ミアは動揺し、セバスチャンはミアの存在に気づく。ステージの中央に置かれたピアノの椅子にセバスチャンは腰を下ろし、思い出の曲を演奏しはじめる。
その瞬間、ふたりが出会った(ある意味再開)ときの場面に切り替わり、もしあのときこうなっていれば、という仮定法過去の世界の中でミュージカルがはじまる。
夢を失ったふたりだったが、セバスチャンが演奏している期間、その期間だけふたりはあの時止まったままの時間を再開させた。
思い出の中で互いのことを何度も思ったことだろう。だけどそれは、時間の止まった過去の記憶でしかなく、ただただ美化されていくだけのもの。
だが、音楽はふたりを有限の世界へ誘い、開けてはならないパンドラの箱をあけてしまったのである。
演奏が終わり、ふたりは会話すらすることなく、互いに見つめ合い、笑顔のまま別れていく。
ミアの最後の”作り笑顔”は最高に素晴らしかった。
色んな感情を押し殺し、彼への最高の演技で、女優を貫いたのである。
最後に、もうひとつ。
この作品をメタレベルで解釈するなら、音楽と演技が恋におちたら、ミュージカルという表現になるのだろうと思った。音楽と演技の融合と言いかえてもいい。
ということは、結局、音楽と演技も恋から冷めてしまうのだろうか。
それとも、今日も明日もあなたに会いたい、てなことを思っているのだろうか。