経済界有志らでつくる民間組織「人口戦略会議」が地方自治体の持続可能性を分析した結果、北海道では2050年に全体の65%超に当たる117市町村が「消滅する可能性がある」という厳しい状況となった。特に注目すべきなのは、自治体間の人口移動がなく、出生と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した場合の推計(封鎖人口推計)における若年女性人口の減少率の高さだ。
 子どもを産む中心となる年代の20~39歳の女性の人口が減り続ける限り、出生数は低下し、日本の総人口は減少していく。50年までの30年間で若年女性人口が50%以下に急減する地域では、70年後には2割に、100年後には1割程度にまで減ると推計される。人口戦略会議が「消滅可能性自治体」と定義したのは、こうした自治体だ。
 道内の消滅可能性自治体は10年前の147市区町村からやや改善したが、多くの自治体で人口流出が加速している。移動を考慮しない封鎖人口推計でみても、若年女性人口の減少率が30%以上の自治体が多い。全国の中でも高く、各自治体の出生率はさらなる低下が予想される。人口流出を抑える「社会減対策」と、出生率を高める「自然減対策」のどちらも強化せざるを得ない厳しい状況だ。
 10年前の消滅可能性自治体の発表を受け、道内の各自治体も出産や育児の支援に取り組んできたが、本当に若い世代が安心して子どもを産み育てられる環境づくりが進んでいるのか、立ち止まって考えてほしい。地方創生を掲げた政府の方針の下、各自治体の取り組みは移住促進などの社会減対策を重視する傾向が強かった上、民間や地域との連携が不足していたと思う。
 若い世代の移住者に支援金を支給するだけでは、出生率の改善は難しい。若者の都市部への流出を止めることは、簡単ではない。だからこそ、若者が地域に残ってもやりたいことができる、手応えを感じられる環境づくりが重要だ。
 子育てと仕事が両立できる職場環境になっているか、男性が育児休暇を取得しにくい雰囲気はないか、地域全体で子育てを支える仕組みはあるか。地域社会を支える役場や農協・漁協、医療福祉施設、商工会などが働き方改革を徹底すれば、地域全体の空気は変わっていくはずだ。
 道内で人口が一極集中している札幌市の出生率低下も深刻だ。札幌の22年の合計特殊出生率は1.02で、全国の政令指定都市で最低水準だ。東京都の1.04も下回っている。
 広い北海道では、親元を離れて札幌で就職や結婚した場合、近くに出産や育児で頼れる親族がいないケースも多い。人間関係が希薄な中心部では地域で子育てを支える土壌も培われにくい。「家族だけで頑張れ」と言われているような状況で、その結果、家族が破綻してしまう恐れもある。家族以外も子育てに関われる仕組みを模索するべきだ。
 道内の自治体、民間、道民には、人口戦略会議の分析を自分ごととして捉え、それぞれの立場で人口減少問題と向き合ってほしい。道にはその旗振り役を求めたい。次世代半導体の量産を目指すラピダス(東京)の千歳市進出は重要な道政課題だが、単なる企業誘致にとどめず、本質的な波及効果を生み出す工夫が必要だ。道が計画を策定し、自治体に任せるだけでは人口の減少傾向は変わらない。

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いがらし・ちかこ 札幌市生まれ。北大大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。84年に北海道開発問題研究調査会(現北海道総合研究調査会)に入り、12年から現職。民間組織「人口戦略会議」実務幹事として、地方自治体の持続可能性分析に関わった。

<シリーズ評論 人口減少社会>① 増田寛也・人口戦略会議副議長 流出抑止、自治体連携を | 拓北・あいの里地区社会福祉協議会(仮) (ameblo.jp)

2024年4月30日 23:49北海道新聞どうしん電子版より転載