多くの人気漫画家を輩出してきた北海道にマンガミュージアムを―。北海道出身やゆかりの漫画家29人が連携して進める「北海道マンガミュージアム構想」の活動が本格化しています。代表を務めるのは「はいからさんが通る」などで知られる大和和紀さん。設立に向けた思いや、今後の展開を聞きました。(東京報道 中村公美)
 

北海道マンガミュージアムの発起人代表を務める大和和紀さん=講談社提供

 

やまと・わき 札幌市生まれ。北星学園女子短大(現北星学園短大)卒。1966年に「どろぼう天使」でデビュー。「はいからさんが通る」で1977年度第1回講談社漫画賞少女部門を受賞。代表作は、源氏物語を漫画化した「あさきゆめみし」「ヨコハマ物語」「N.Y.小町」「イシュタルの娘~小野於通伝~」など。
 ――マンガミュージアム設立に向け、活動を始めた経緯を教えてください。
 「わたしはデビューから50周年を迎えた2016年ごろ、白内障をわずらったため、マンガの執筆を休むことを決めました。少し時間ができるようになって、以前から、夢として抱いていたマンガミュージアムを北海道につくりたいと、具体的に考えるようになったのです。北海道には人気の高い有名作家がたくさんいます。しかし、地元の人は意外とそのことを知らないし、北海道はマンガミュージアム空白地帯。『地元ゆかりの作品が集まる場があれば』と思っていました。思いを高校時代からのマンガ仲間、山岸凉子さんに伝えたところ『わたしも手伝うからやろう』と言ってくれ、仲間を募ることに。そして2021年に設立に向けた枠組みが発足したのです」
 ――呼びかけには大きな反響があったそうですね。
 「手紙やメールで協力をお願いしたところ、多くの漫画家から賛同をいただき、18人の発起人、11人の賛同者が集まりました。北海道ゆかりの漫画家で私は一番年上に近く、キャリアも長いので、代表を務めることになりました。国内にマンガミュージアムは複数ありますが、地域の漫画家たちが主体となって、設立を進めていくのは初めてのケース。活動は手探りです」

 

 ――マンガミュージアムに期待する役割は何でしょう。
 「文化的な価値を発信するとともに、観光資源として活用してもらい、街の魅力の底上げにつながれば。マンガは国内だけでなく、海外でも人気が高い。観光客に訪れてもらうほか、地元の人も楽しめる場所にしたい。北海道からこんなにすごい作品が生まれていると知ってもらうことで、誇りになると思うし、次の世代が漫画家を目指すきっかけになるかもしれません」
 ――目指す施設の姿を教えてください。
 「具体的なものはこれからですが、北海道らしく自然を感じることができる空間になれば。ミュージアムは展示部門と原画の保存事業が二本柱になると考えています。マンガの原画はかつては扱いが適当で散逸するケースも多かった。現在は原稿は作家に返却されますが、保管に苦労する事例も多く、死後の扱いに課題もある。各地のマンガミュージアムを見学しましたが、秋田県横手市のまんが美術館(※注)は原画の収集とそのアーカイブ化に力を入れていた。マンガ文化を後世に伝えていくためにもこうした取り組みを参考にしていきたい」
※注)横手市増田まんが美術館 日本で最初の「マンガ原画」をテーマとした美術館。1995年にオープンし、2019年にリニューアル。原画収蔵数は45万枚以上
 ――札幌市に開設を働きかけてきたそうですね。
 「当初は複数の候補地が視野にありましたが、国内外から訪れやすい札幌に働きかけることにしました。その後、札幌市は設立に向けた検討を進めています。ミュージアムを永続的に安定経営していくためには自治体の力は不可欠で、札幌市の対応に期待しています。そして発起人としては、ネットワークを生かした企画展など漫画家だからこそできる協力をしていく。ただ、私の年齢を考えたら、5年以内にはオープンするようなスピード感で進めてもらいたいと願っています」
 ――なぜ北海道は多くの漫画家を輩出してきたのでしょう。
 「マンガというのはペンさえあれば自分の世界をつくることができます。北海道は環境的に、自由な発想が生まれやすい土地なのだと思います。だからこそ、冒険、ミステリー、恋愛と多彩な分野の書き手が育ったのではないでしょうか。そして風景が美しく絵になる場所が多いことも、影響しているのではないかと思います」
 ――3月には札幌で「『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展―大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展―」が開催されます。
 「山岸さんは発起人の副代表でもありますが、札幌の高校時代から交流がありました。ただ、この2作は出版社が違うので、これまで合同展は不可能でした。今回の展示はミュージアム設立に向けた機運を高めるために実現できた。原画を多数展示しますので、印刷とはまた違う力を感じてほしい。そして一つの場所で複数の作家の作品を見る楽しさを伝えるためにも、新年度も意欲的な企画展を実施していきたいです」

「あさきゆめみし」×「日出処の天子」展―大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展― 3月9~24日、東1丁目劇場施設(札幌市中央区大通東1丁目)。午前11時~午後7時(入場は午後6時30分まで)、会期中無休。入場料は一般1500円、大学生・高校生千円、中学生以下無料。9日に開催される大和さんと山岸さんが登壇するトークイベントは完売。問い合わせは札幌市コールセンター、電話011・222・4894(午前8時~午後9時)へ。

2024年2月25日 14:00(3月5日 17:14更新)北海道新聞どうしん電子版より転載

大和和紀×山岸凉子 札幌が生んだ少女漫画界2人の「女神」が初トーク 「私たち乾燥系」<デジタル発 | 拓北・あいの里地区社会福祉協議会(仮) (ameblo.jp)