新作バレエ『Blixen』 | 大好きな日々の覚え書き

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デンマークの暮らし、教育、天然酵母、麹、発酵の話、旅行の話、子どもたちを通して知ったバレエのことなどなど、ふと頭に浮かんだこと、思ったこと、感じたことをそのまま綴るブログです。

1954年、アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)がノーベル賞を受賞した時に発した「イサク・ディネセン(Isak Dinesen)が受賞していたらもっと嬉しかった」と言う言葉が語り継がれています。

そのイサク・ディネセンとはカーアン・ブリクスン(Karen Blixen)のことです。

彼女は作品を英語とデンマーク語で執筆しましたが、イサク・ディネセン(男性名)は、彼女の英語版ペンネームでした。

カーアン・ブリクスンは、1950年代に、何度もノーベル文学賞の有力候補に上がっていたにもかかわらず、受賞には至りませんでした。

でも、デンマークの学校では「必ず読まれるべき作家」の一人になっている、20世紀を代表する作家です。

さて前書きが長くなりましたが、今シーズン、デンマーク王立バレエ団の目玉商品、新作バレエ『Blixen』のジェネラルに行ってきました。今回はその感想を書きます。

これは、人間『Blixen』の生涯を描いた、全3幕の作品です。

振付は、デン王立バレエ団プリンシパル兼振付家のグレゴリー・ディーンです。

彼が全幕バレエを振りつけるのは、前シーズン初演された『シンデレラ』に引き続き、これが2作目です。

新しい現代風の設定を期待して行ったので、お伽話の『シンデレラ』そのもののお姫さまストーリーに、とてもガッカリさせられました。

でも商業的には大成功だったようですので、私がただひねくれていたのかもしれません。

が、そんな訳で、今回はどんな作品になるのかしら?とちょっと不安な気持ちで観に行きました。

第1幕は少女時代。第2幕はアフリカ生活。第3幕は作家としてデビュー、成功そして最期。

「私は悪魔と契約した」と言う、彼女自身の有名な言葉からインスピレーションを受けて、悪魔が全幕に登場し、カーアン・ブリクスンを導きます。

ひとりの作家の、激しく、情熱的な人生を、彼女に影響を与えた実存した人物たちを登場させながらも、フィクションのバレエ作品として仕立ると言う試みだったようです。

アフリカ生活を描いた第2幕、舞台装飾が新鮮で効果的でした。

カーアンとデニスの愛は、映画『愛と哀しみの果て』でとても有名になりましたが、二人のPas de Deux は、ドビュッシーの音楽、『月の光』のピアノの演奏、これはハズレないでしょう〜〜って感じでした。

ドラマの中にドラマを入れたり、ちょっとジョン・ノイマイヤーの『椿姫』と重なるような印象を受けた詩情豊かな幕でした。

でも全体的には、いくらストーリーバレエだとは言え、あまりに解説的だったのが気になりました。

バレエを観ていると言うより、伝記を読んでいると言うような印象が残りました。

感情を揺り動かされる場面があまりなかったのは、カーアン・ブリクスンの人生に、自己投影しにくいのが原因だったかと思います。

実存した人物の人生を、普遍的な芸術作品に仕上げる試みは、どんなに難しかったことだろう!!と考えると、あまり文句は言ってはいけないなぁ〜と思います。

「最近の王立バレエ団は田舎っぽい」、バレエマニアでコペンハーゲンっ子の友人が話していました。

政治的な抑圧があり、王立劇場の大衆化が進んでいる。国際的な作品よりも、内輪受けするものを選ぶ態勢がある、と言うのです。

国立劇場の宿命とは言え、(なるほど、確かに、鋭い指摘!)だと思いました。

『Blixen』は国際的な作品に成り得るのか?デンマーク王立バレエ団がこの作品を持って海外ツアーに出かける日があるのか?とか考えると、ダメかもなぁ〜と悲観的になってしまいました。

でもデンマーク国内で商業的に大成功になるのは間違いないと思います。