入学試験期間中の息子の事を少し書きます。
トレーニング期間中、息子は水を得た魚のように心から楽しそうにしていました。そして、私も息子は合格するだろう、と確信していました。
その確信は、初めからあったものではありません。
第1審査の結果を見た時に生まれました。
息子は、素人の目でパッと見て、ダンサーとして完璧の体型をしていると、私には思えませんでした。
だから、落とされるなら第1審査だろう、と思っていました。
全ての始まりは、エリック・ブルーンがアルブレヒトを踊った『ジゼル』のDVDでした。
私が観ていたそれを横から見て、文字通り稲妻に打たれたようにビビビッっと画面に釘ずけになったのは、息子が2歳になる前でした。(まだ授乳している最中に起こった事件だったので良く覚えています)
それ以来、ただひたすら自分で勝手に踊り続けていた息子でした。音楽が鳴ると教会の中でも踊りだすので困ったものでした。真面目にこの子はどこか変なのではないか?と心配したくらいでした。
(こんなにバレエが好きな子を受け入れられないなら、デンマーク バレエ界に未来はないな!)と第1審査室から出て来る息子を待ちながら思った事を覚えています。
第1審査合格の通知を読んだ時、この子は最後まで通るな!と直観しました。
……と、ここまでは、ちょっと余談でしたが、うちの三男を紹介するのにいいエピソードかな?と思ったので書きました。
さて、
前回は、第3週目のトレーニングに進むところまで書きました。
今回の記事は「個人的な体験」の部分が多いのでご注意下さい。
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第3週目は、親の控え室に、特別な雰囲気がありました。
泣けど笑えど、結果が出るまで後1週間。
取り留めもない話しをして気を散らしながら、トレーニングする子どもたちを一緒に毎日待ち続けて来たので、親たちの間である種の連帯感が生まれていました。
第3週目大きな話題は、医師診察に関してでした。
それはとてもシビアな診察で、その週の不合格者は医師診察結果で決まる、という人もいれば、それは親の面談も兼ねているので用心して行った方がいい、という人もいました。
確かに、医師診察にはできる限り両親で来るように、と言う指示がありました。
私は電話でアポイントをとりました。
「姉弟なので、続いた時間にお願いします。」と言って初めて、学校側が、2人が姉弟である事に気付いていなかった事が分かりました。 その年、兄弟でトレーニングに参加したのはうちの子たちだけでした。
そして当日、それはその週の火曜日でした。
診察室には校長とバレエ学校の女性医師がいました。
部屋に入った時、校長に頭のてっぺんから足の先までジロリと見られた気がしました。(おーこれが噂の親の診察か!)脚が綺麗に見えるハイヒールを履いて行って良かったなあ〜!と思いました。
息子の診察は和やかに進みました。
書類の検査、口頭質問。
聴診器での基本的な診察。
背骨の診察。
うつ伏せにベットに横たわり、校長が足の指一本一本を丁寧に見たり、脚や膝を検査したり……。
「君は踊るのが本当に好きだね、今日もトレーニングが楽しみでしょ!」 と最後に言われた事を覚えています。
診察は凄く長かったように記憶していますが、書類を見ると15分前後だったようです。
そして娘、
同じように行われたと思いますが、覚えているのはそのうちの一つ。背骨の検査。 上半身裸になって屈み込んだところを調べられました。
「異常なし」と医師。
「もう一度よく見て!」と校長。
「異常なし」と、もう一度見た後、繰り返す医師。
「いや、もっとよく見て」と校長。
ただならぬ雰囲気で緊張する私たち。
「あーこれね!」と背骨の一点を指して答える医師。
「そうなんだ」と校長。
何のことだかまるで分からず呆然とする私達に校長が言いました。
「背骨が少し傾いています。踊っている姿を見て気付きました。明日バレエ団の整形外科医に見てもらいましょう。」
一瞬で頭の中が真っ白になりました。
「姉弟で、どちらか片方だけが合格した場合どのように対処するか、考えてありますか?」 息子の医師診察の時にも言われたその言葉を、校長先生はまた繰り返しました。
全く同じ言葉でしたが、娘の診察後言われた時、その言葉が初めて現実問題として、ぐわあ〜んと私の頭に響きました。
娘が不合格だったら、息子はどうする?入学させるのか、させないのか?
これが、以前書いた、私たちが陥ったジレンマでした。
そして頭の中が真っ白なまま帰宅した事を覚えています。
その晩、夕食時のミニ家族会議で、長男がハッキリ言いました。「そう言う体の子は、無理なんじゃないの!」
そして、その言葉を聞いた時、真っ白になっていた私の頭の中の霧が、スーッと晴れるような感じがありました。
体がダメなら諦めるしかない!
では息子はどうする?
「どちらかが不合格だったら、どちらも入学させない。」
娘は、まだ整体外科医に診察してもらってもいないのに勝手に諦めるな!と不満気で、息子はなんで僕が犠牲になるんだ!とこれまた不満気でした。が、私たちが家族としてそう決断するのに、それ程長い時間は必要ありませんでした。