1月13日に台湾では蔡英文総統の後継を決める総統選挙と、議会議員の選挙が行われ、総統選では現在の与党民進党頼清徳氏が勝利し、当面従来政権が継続する。一方台湾の国会に当たる立法院の改選では、与党は過半数を失い野党国民党が第一党になり、民衆党も議席を確保していずれも過半数を獲得するに至らなかった。

 

総統選では中国への親和感を示す国民党ではなく、現状を維持しようとする蔡総統の施策を踏襲することとなり、中国の工作は実らなかった。頼氏は元は台湾独立を公言する人だったが、今回国民党の「対立を深めると戦争になる」との主張に「現状維持」とややマイルドな表現としたのである。

 

こうして現在の政権与党民進党は勝利したが、台湾では過去には国民党と民進党が交代で政権を担当した歴史があった。しかし前回選挙の直前に中国はイギリスとの約束を反故にして、香港の一国二制度を解消し香港も中国の一部とし、香港ではこれに反対するデモなどが多発し混乱した。

 

これを対岸で見ていた台湾は、台湾も一国二制度にしたいという中国の本音を知った結果、今の民主主義政権が変質するとの警戒感から再び民進党を勝利させた。中国は今度こそ親中国の政権を立て、再び一国二制度を台湾にも適用したいと目論見、国民党と台湾国民に工作し、必死の巻き返しを図ったのである。

 

今回も元国民党の総統馬英九氏が投票日の直前に「もっと習近平主席を信用しても良いのでは」といったことが逆に警戒され、辛うじて総統選挙では頼氏が勝利した。しかし議会選挙では与党議員の腐敗などもあって、民進党は第一党からも転落し国民党も過半数とはならず柯文哲氏が率いる民衆党が少数ながら鍵を握ることとなった。

 

現地の事情に詳しい人のレポートでは、台湾の若い人の間ではティックトックなどのアプリで、中国の様々な融和を装う宣伝工作が浸透しているとされている。その結果若い人は中国への危機感がそれほど強くないと言われ、与党の腐敗も相まって民進党を議会から遠ざけたとも見られている。

 

総統選挙こそ勝ったとは言うものの、議会は少数与党となり政策を実現するためには紆余曲折が予想され、容易な道のりではなかろうから、気を引き締めてほしい。頼新総統にとっては、「目出度さも中くらいなりおらが春」といった心境ではあるまいか、我ら同盟国もしっかり支えていかなければならない。