おとなしく巣ごもりするのに飽きたこともあり、雨のあい間をみて物置の片付けに手を付けたら、何年たってもきれいな黄緑色をしているバフンウニの殻を見つけた。 浜歩きでよく目にするウニだ。 そういえばウニ(海胆)にまつわるおもしろい話があったなと、苦手な片付けを中止する理由ができた。
死んで棘がとれたウニは、まんじゅうというか丸餅型の殻が残る。 殻には、背面に肛門、腹面に口のけっこう大きい穴が開いている。
澁澤龍彦の著作によると、ウニにまつわる伝説がおもしろい。 以下適宜引用する。
伝説には二つの流れがある。 一つは、「雷石」と呼ばれる化石の話。 雷と一緒に天から落ちてきた石だと考えられ、護符(お守り札)として珍重された、という。
この石を身につけるとよく眠れるようになる――ともいわれていたらしい。 そうか、不眠の心配は大昔からあったのだ。 少し安心した。
もう一つは「蛇の卵」 と呼ばれ、古くからガリア人が崇拝していた、球形をしたウニの殻の化石のことである。 「復活と再生のシンボル」 だったと想像されるという。 とすると、今現在でもニーズがありそうだ。
フランス・ブルターニュ地方の新石器時代の墳墓でもウニの化石が発見されることから、はるか昔から、たしかなウニ崇拝があったとみられている。 こうなると、浜辺で気楽に踏みつけるのも気がひける。
美しい形と、シンメトリーや放射イメージがあるデザインから、ウニの殻を特別にみるようになったことは想像に難くない。 だけど一方、ウニに近い形やデザインの自然物は世界中でほかにもあると思うが、なぜウニなのか・・・・愉しい疑問が残る。
宗教的にもウニのシンボリズムが重要な役割を演じたという。 ウニの口には5つの歯があって、口全体が五角錐の形になり、ランタンにも譬えられた。 ウニが死ぬとこの歯がとれて、ぽっかりと五角形の穴があく。 その穴の形に、神秘的な図形ペンタグラムマ(五芒星)が見えてくる。 今日まで知らなかったが、平安時代の陰陽家、安倍晴明がこの図形を家紋にしたらしい。
錬金術の伝統では、半球状のウニの殻は、地球の北半球を表わしているという。 二つのウニの腹面を合わせて地球をイメージするというわけである。 なぜウニが、とヤボなことは言うまい。
ウニのようなごく普通の海中生物の殻が、これほど強く、豊饒なイメージやシンボリズムを成り立たせていることに驚く。 学校ではあまり教えてくれないことだと思うが、海の自然と、人の自然(文化)とがしっかり融合した好例である。 そうとらえるとうれしくなる。
余談だが、メモによると、ウニは200年くらい生きることがあるという。 また、100歳を超えても10歳の個体と同じ生殖能力を持つことがあるという報道もあったようだ。 案外、こういう超越的な生命力が崇拝の理由になったのかとも考えるが、大昔にそういう知見があったのだろうか。
下の写真は、表面の凹凸模様にパンチがある種類のウニではないが、物置で見つけたバフンウニの背面である。