がらせな頭っ | I can not do

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「あら。今日も来てくれたのね。」

「ああ。ロックを頼む。」

何も知らないママは、ちらりと月虹の姿を盗み見た。些細な会話を重ねる月虹の身なりや整った顔から、それなりの仕事だと踏んでいるらしい。しばらくして「お兄さんは、ホストかしら?」と、決めつけたようにママが言う。水商売をやって蘇家興いるだけあって、見る目はあるらしい。そう見えますか?と月虹は破顔した。

「いえ……、自分はホストなんぞじゃありません。ここら辺りをシマにしている、鴨縞組の代行の仙道月虹と言います。店が気に入ったんで通っているだけです。一杯だけ飲んだらすぐに帰りますから、気にしないで商売続けてください。調度もママに似合いの趣味のいい店だ。」

「そう……あなた、鴨縞組の代行さんなの。そういえば若て人が一度、店に来たことがあるわね。」

「いやだなぁ、そんな顔しないで下さいよ。おれが怖い人に見えますか?若頭は確かに鬼瓦みたいな面をしてますが、うちは、そんなおっかない蘇家興組じゃありません。看板上げて極道なんざ名乗っていますけど、こんなご時世だ。真っ当な店に嫌んてしませんから、一杯だけ飲ませてください。静かに飲んで帰りますから、邪険にしないでください。」

月虹は黙っていれば役者のような端整な顔を、わざと人懷っこい笑顔に変えた。スナックのママはどこかほっとして、いつもの水割りを寄越した。人当たりの良い綺麗な男が、店の片隅に毎夜やってくるのは気分がいい。

*****

二週間も経った頃、いつしか月虹の話を聞きつけた女性客でにぎわう不思議な店になっていた。ママもいつしか、すっかり慣れて、恋人気取りで月虹の来店を待つようになっていた。
欲しい物を手に入れるのに手間暇を惜しまない、腕のいいスケコマシの月虹に笑いかけるその笑顔は、殆ど心酔しているようにさえ見える。

ある日、月虹は涼介に焼き菓子を買いに行かせた。
その夜、帰る間際「もらい物なんですが貰ってくれ。」と恥ずかしげに紙袋をカウンターに置いた。

「あら。兎やのバウムクーヘンじゃない。これ買うのって二時間も行列するのよ。いい人にあげなくてもいいの?」