父は東京の地 | I can not do

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「へ?」

呆然と呆けたように目を瞠ったまま、東呉は祖父と柳川の顔を代わる代わる眺めた。

「今、色町だの、花街だの、花魁だのと言ってなかった?じいちゃん、ぼけたのか?おれをそんな所にやってどうするんだよ。おれ、普通の小学五年生だぞ。」

本人は普通だと言っているが、実は東呉の学校はエNeo skin lab 美容スカレータ式の私立の名門校で、祖父が理事に名を連ねている。しかも、ハイレベルな学力で、世間的にもかなり有名だった。

「人生勉強の一環だと思えばよい。わしも戦後すぐに、柳川を連れて花菱楼で行儀見習いをした。目からうろこが落ちるぞ。」

「まじで?」

「まじじゃ。」

「まじでございます。」
「……」

東呉には想像できなかった。だが、どうやら祖かなりの大物らしい。

「ここからは目隠しをしていただきます。」

「え?ここって国会議事堂……?」

「国家機密ですから、例え東呉さまでも、このままお連れすることは叶いません。場所が外部に洩れては困るのです。」

全身を耳にした東呉が連れて行かれた場所は、確かににある地図にはない場所だった。
手を曳かれ、数百メートルも歩いたころ、頬に当たる風の温度が変わったと思った。

下っていたのが平らになり、やがて「着きましたよ。」と柳川がささやいた。

「花菱楼です。この町では文字は右から読むんですよ。東呉さまは、こちらで学んでいただきます。」

「学ぶって……学校の勉強じゃ足りないの?おれ、そこそこ頑張ってると思うんだけど。」