石垣島から那覇空港へ着いたのは夕刻だった。
空港でレンタカーを借りて原人の宿舎へ、荷物を置いてから野人のホテル、それから国際通りへ夕食に出かけた。
沖縄が初めての原人に野人は食いものの講義をやった。
石垣島では原人は沖縄らしい料理はチュラガーと沖縄そばしか食っていない。
居酒屋で原人が最も気に入ったのがスクガラスで、豆腐に小魚の塩漬けを乗せたものだ。
飲んベの原人はクセのある食い物を好む。
「この魚何~?」と聞くから「アイ~」と三重の呼び名で答えた。
スクとは「稚魚」のことで、つまり正式にはアイゴの稚魚だ。
アイゴは背びれ胸鰭などすべての刺に毒があり、内臓も身も磯臭く、どちらかと言えば嫌われ者で捨てられる地域も多い。
反対に美味と絶賛する地域もあり賛否両論だ。
野人も子供の頃から何度か痛い目にあった。
大きなもので1キロを超え、大量に定置網にかかる。
手のひらサイズは湾内に群れて養殖のアオサを食い荒らす。
干物にした小型のアイゴを焼く時の臭いは「クサヤの干物」に近く、強烈だが野人の好物で旨い。
調理する時は必ずハサミで危険な背びれなどをちょん切ってから行う。
活き絞めして血抜き、水氷で急冷処理、すぐに内臓を抜いたものは臭みもなく、冬は脂も乗って抜群に旨い。
極端な話、絞めてからすぐに、包丁が内臓に触れないように身だけを綺麗に3枚におろすのが理想的だ。
この方法はニザダイや熱帯魚など、悪食で内臓が臭い魚に用いる方法だ。
いずれこのアイゴは、美味な魚として世に出してあげよう。
昔、沖縄で初めて、豆腐に乗っかった丸ごとのちっこいアイゴが出された時、野人は居酒屋の親父に言った。
「この背びれ・・唇に刺さらんかい~?」
小さくても死んでいても・・刺されたら痛いのだ。
親父は答えた。
「そりゃあ、たまには・・チクリと・・」
何でもがぶりと食う原人はタラコのような唇がチクリときたようだが、それがまた快感だったらしい。