海の側の倉庫に「イヌビワ」が頑張っていた。
倉庫は穴だらけの廃墟で周囲は舗装なのだが、その隙間のわずかな土に根を張っているようだ。
写真でもわかるようにイヌビワの実はイチジクの形をして、もげばイチジクと同じように乳液が出る。
夏から秋にかけて黒熟、味もイチジクとそれほど変わらない。
つまり、野生のイチジクなのだ。
正式にはクワ科イチジク属の落葉小高木なのだが、その葉はイチジクと違ってごく普通の葉だ。
潮風を好み、関西以西、四国、九州、沖縄の海岸沿いに自生している。
名の由来は、ビワに似ていて食べられるがビワほど旨くないことからイヌビワになったようだが、味はビワではなく紛れもなくイチジクだ。
イヌビワは古代から貴重な食料として重宝されていた。
遣唐使の時代に今のイチジクが大陸から伝わり、同じ味だったことからその名はそちらへ移転した。
当時は「山のイチジク」とでも呼んで区別していたのかも知れない。
本来は「イヌイチジク」と言うのが妥当なのだろうが、図鑑で正式名称にする時にそうなったのかも知れない。
しかし、ビワとは似ても似つかず命名センスが悪いようだ。
古代の「イチジクがり」とはイヌビワのことで、イヌビワには野生の素朴な甘さがある。
野人が育った家には大きなイチジクの木が2本あり今でも大好物だが、このイヌビワもまた大好物。
フユイチゴもそうだが、山や海岸で冬にイチゴがいくらでも食べられることはあまり知られていない。このイチジクだって山や海岸でいくらでも食べられるのだ。
野山はそうやって地球誕生以来生き物の命を育んで来た。