風をよむ 1 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは


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狩りの・・本能 集中・・
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子供の頃も海を中心に育ったが社会に出てからも海の仕事が長い。海の仕事で一番怖いのは風だ。風が引き起こす波によって船は翻弄される。風向と風速をよみ間違えれば命取りになることもある。船の遭難の大半は風波による転覆事故だ。風向と風速によって出船が決まり、航行中は進路が決まる。風を動力とした昔の帆船やヨットならなおさらのこと。海で生き残るには泳げることや体力や技術よりも「風をよむ」ことが最も重要になる。

今は随時気象情報がわかる時代だが、以前は正確な情報は日に2回のラジオしかなく、9時と4時の天気図作成は必要な日課だった。

屋久島に会社の船舶拠点があり、15トンから60トンの船舶が数隻、船員は十代から50代まで15人ほどいた。野人は26歳でその指揮をとった。数隻で「秘境」と呼ばれる離島まで数日間遠征することも多く、船長であり、船団長でもあった。出航判断だけでなく、数日後の帰港予定までの天候をよまなければならなかった。国内でも屈指の黒潮本流の荒海では木の葉同然の船で、荒れ狂えば数十分で波は巨大な絶壁となって襲ってくる。1時間の逃げ遅れが命取りになることも多い。屋久島の漁師達も魚影は国内最高だとわかってはいても帰りが怖くてほとんど行くことはなかった。距離にして伊勢から八丈島くらいだったろうか、時間にすれば余裕を見て片道十時間だ。途中にトカラ列島が点在するが避難港はなかった。

気象情報は外れることが多く、それは今も同じで参考にするしかなく、最後は自分の判断と本能だけだ。科学はいまだに正確な判断は出来ない。地震も台風も・・・

文明の発展と共に人は道具に頼るようになった。便利で重宝するには違いないが、逆に何万年も磨かれてきた本能が退化してしまう。危機を感じる第六巻とも呼ばれる本能は動物ならば持っている。それは地球が発する磁場の歪みから来る電波や音波の受信であり、それ以上のものもあるのだ。科学では解明されなくとも地球は確実に生きて活動しているエネルギー体であることを野人は身を持って知った。その本能は幼少期から磨かれ大人になって完成された。そして幾度となく絶体絶命の危機から救われた。これからその体験談を「連載 東シナ海流」の後篇として書くつもりだが、その実例を少しだけ紹介する。

理論は道具に過ぎず、最後は本能が明暗を分ける。 



2に続く・・・