太刀魚の刺身と濃厚な「潮骨汁」 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは




一昨日いただいた太刀魚を昨夜は刺身と潮汁にした。釣ってすぐに処理された太刀魚は翌日でも刺身で美味しく食べられる。バター焼きで柔らかい肉質のイメージのある太刀魚だが、刺身で食べると歯ごたえがあり、脂が乗って本当に旨い。

銀色の太刀に似たところからこの名が付いたが、昼間は深い泥底で尾を底に突き刺すようにして上を向いて立ち泳ぎ、つまり立ち魚とも呼ばれる。夜間に海面まで上昇、小魚を追う獰猛なフィッシュイーターだ、歯は鋭くて普通の仕掛けでは太刀打ち出来ず、プツンプツン噛み切ってしまうので金属の疑似餌やワイヤー糸などで釣る。ウロコがなくグアニンと言う銀粉で覆われているが、触るとはがれやすい。グアニンは口紅やマニキュアの原料としても使われている。銀粉は表皮の一部で、次々と新しく作られてせり上がってくる。これで雑菌から身体が守られているのだ。太刀魚の銀粉層が取れて皮膚が露出すれば病気で死んでしまう。他の魚も表面の粘膜やウロコがはがれれば菌に侵され生きては行けない。

陸上の動物や植物は粘膜やウロコの代わりに表皮とそこに住み着く微生物に守られている。野人はそこから学んでもう数十年、石鹸でこすることはしない。風邪もまったくひかなくなった。石鹸で表皮まで毎日こすり落とせば、風邪のウィルスや雑菌に負けて熱が出るのは必然的だ。紫外線にも耐えられなくなり、アトピーにもなるだろう。使うのは自由だが自滅するようなものだ。一見不要に見えるガサガサの木の皮も人の垢も必要なもの、層が下から補充されて不要になれば自然に水で流れるようになっている。それが進化した生き物の「仕組み」だ。

太刀魚は白身で淡白な味のイメージがあるが、大きくなるとマグロのトロのように脂肪分が多く、DHAやビタミンDを大量に含んでいる。鮮度と処理が良ければ刺身が一番。銀粉を金たわしで落とし三枚におろす。薄皮をひくと身が3本に分かれるからぶつ切りで良い。学生の頃、薄皮どころか銀粉ごとぶつ切りにして刺身で食べたことがある。醤油に銀粉が浮いて不気味だったが旨かった。薄皮も適度な歯ごたえになる。下痢はしなかったが、銀粉だけは落としたほうが良いだろう。骨は捨てずに骨汁にする。20分以上煮出すとマダイに負けないくらい最高の味が出るのだ。コブだしに粗塩だけで十分旨い。仕上がりに刺身の端の腹肉などを放り込む。画像で相当な脂が浮いているのがわかるだろうか。白湯スープのような太刀魚の「潮骨汁」の完成だ。