処理の方法と食べる時間で異なる魚介の味 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

魚介類は活きで食べるのが必ずしも最上の食べ方ではない。肉は必ず長時間冷蔵庫で熟成させ、絞めてすぐに刺身で食べられるのは鳥くらいだ。魚でもマグロやブリなどは数日間冷蔵庫で寝かせないと旨くない。ブリはガムみたいで2日くらい寝かせると程良い歯ごたえと旨味がある。つまり魚種によって異なる。両方いけるのもあればすぐに食べたほうが断然旨いものもある。活きで食べる代表はイカと海老と貝で、死後の世界の味(笑)とは相当な開きがある。イカは半透明の状態で食うのが一番だ。ただ例外はモンゴウイカで、活きたまま食べるとコリコリ感はあるが甘味が出ない。一晩寝かせるか、冷凍して解凍するとコリコリ感はなくなるがねっとりとした甘味が出る。1キロサイズのマダイであれば一番旨い時期は活き締めしてから6時間くらいだろう。死後と旨味の関係は数十年に渡って研究した。活け締めの処理の仕方によっても相当変わってくる。

魚介の味は色んな条件で天地ほどの味の差が出るものだ。一般的な旬は産卵前の脂の乗った時期だが、地域、水温、水深、エサなどで味は変わり、また大きさによっても極端に変わる。一般的に小さなものは味が劣り、価格も安価だが、マダイのように3キロを超えると味も価格も下がるものもある。5キロになると刺身の味がなくなるのだ。アジにいたっては価格の安い小アジのほうが刺身は美味しく、大きくなるほど大味になる。逆にサバは大きな程脂も乗って味は良い。やっかいなのは同じ海域の同じサイズでも味には個体差があると言う事だ。どこでどんなエサを食べていたかで味は変わる。養殖いかだの下に居ついて網からこぼれ出るエサを食べて育ったマダイは養殖マダイの味しかしないのだ。夏のメジナは磯臭くて食べられないと言うのが一般的な磯釣り師の常識だが、水深30m以上で釣れたメジナは全く臭くなくて非常に旨い。それくらい味と言うものは複雑だ。そして絞め方によってまったく味が変わってくる。定置網から上げてそのまま船の氷水の中に入れた魚はすぐに鮮度が落ちて夕方には不味くて刺身で食えない。魚屋で売られる魚はそのようなものが多い。だから魚離れが進む。血抜きせず、氷で苦しませるから全体に血が回っている。死後硬直も早く、硬直が解けるのも早い。腐ってはいないが夕方にはぶよぶよで生臭い。美味しく食べられるのは数時間くらいだ。即死、血抜きして水氷で急冷すれば三日経っても刺身で食べられる。本当に旨い魚とは、この三つの処理を施して適正な時間熟成させた魚のことだ。死後、時間が経つと旨味の元が急増、死後硬直が解ける前にピークになり、歯ざわりも程良くなる。テレビの食番組のコメントでは何を勘違いしているのか必ず「コリコリして美味しい!」と言う言葉が出てくるがバカバカしい。コリコリと旨味は関係がない。マグロのトロや最高のサワラがコリコリするのだろうか。水槽の魚の活き造りは処理は完璧だが基本的には旨くない。気分だけの満足感だ。魚は一週間活かせば味はなくなる。活魚水槽に入れるには一週間以上かかるからだ。獲ったばかりの魚は輸送には耐えられない。バカ高い料亭の魚が旨いのは魚屋に並ぶ魚とはモノが違うからだ。それくらいこだわらなければあの料金は取れないだろう。一度食べただけで魚の味を決めてかかるのは間違っている。消費者のほとんどはそこまで気付いてはいない。魚離れはそこに原因がある。色んな漁協、水産関連で講演したが、生産者自体が慣習から脱皮出来ずにいる。魚の扱いが雑なのだ。トビ口で頭をカツン!と刺して絞める事が多いが血は完全に抜けない。消費者、生産者共に魚の本質を知らない事が現在の漁業の窮状を招いている事に気付いていない。農業にも全く同じ事が言えるようだ。