東シナ海流36 遺体を掘り起こす | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

ロクと赤ん坊は発見されたが、もう一人友人のヒッピーが見つからない。見渡す限り土砂に埋もれ、皆目見当が付かないのだ。9月の南西諸島はまだ真夏の暑さ、三日目となると相当腐敗も進んでいる。県警以下、全員がマスクをしてゴム手袋、辺り一面臭い消しの線香の煙が漂っていた。野人には埋もれている場所がわかった。皆から離れてそこを掘ると柔らかい貝の紋様のようなものに当たった。足の親指の裏だったのだ。全員がまわりに集まったが、全体が見えてくると強烈な死臭が広がり、マスクをしていても参ってしまい、自然に腰が引けてしまう。結局一人でスコップをふるった。大雑把な性格ゆえに頭部にスコップが当たり、血膿が噴出すと、遠巻きに見ていた県警が言った。「あ!君・・そんな乱暴にしないように~」。乱暴にしなくても傷だらけで既に血膿が溢れていた。引っ張り出せる状態になり、足を持って引っ張ると皮がズルリと剥けた。するとまた県警が同じセリフを吐いたのであわてて皮を元の位置に戻して形を整えた。これ以上外野に文句言われるのもかなわない。頭と両足を抱きかかえると皆が驚いた。野人はマスクもゴム手袋もしていなかった。つまり素手で腐乱遺体を抱っこして運んだのだ。何処を持っても皮が剥けるのだからこうするしかない。腐乱すれば臭うのは当たり前、そんなこと気にして人間などやっていられない。「よしよし、ご苦労さん」と声をかけながら丁寧に寝かせた。抱きかかえた服は血膿にまみれて腐臭を放っていたが気にしない。海に飛び込めば済む事だ。

親としては息子の姿を見たいだろうが、膨らんで死蝋化して生前の面影すらないこんな姿は見せたくはないと思った。まだ彼は同じ二十代だ。自分が人間としての生を終えた理由すらわからないだろう。東京からは両親と妹が駆けつけて別の場所に待機していたのだ。

別働隊では、最初に上地の爺ちゃんが、潰れて土砂に流された家の下から畳に挟まった状態で発見された。奥さんだけが見つからず、土砂の平原で全員が途方にくれていた。野人はその場にいなかったが、休憩中に住友建設の社員がためらいながら口を開いた。「こんなこと言うと変に思われるかも知れないが・・」。「僕はこの年までこんなことは一切信じた事はなかったのに・・」と思わせぶりな言い方に、「早よ言わんかい!」と皆がせかせた。

全員がワラをも掴む気持ちだったのだ。彼は蒼ざめた表情で恐々と話を切り出した。