屋久島で仕留めた巨大ダコ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

屋久島に3年住んでいたが、その頃よく潜水していた。スキューバは常に船に常備していたが海底調査かトラブルなどの非常時用だ。遊びで潜るには素潜りが開放的で一番だった。20mくらいは軽いが、楽しいのはやはり10m以内で、無理なく長時間楽しめる。休日にクルーと二人で一湊港から船外機つきの和船で出航、近くの磯で潜っていた。「イシダイ」か「クエ」を突くのが目的だった。屋久島はじめ南西諸島の黒潮本流の島々は透明度が非常に高い。20mくらいは良く見え、30m以上ある場所が多い。その日もモリを片手に表層から海底を探していた。既にイシダイは数キロのものを二枚仕留めていた。全員の今夜の晩酌の肴になる。クルーは和船を操船しながら後をついて来て魚を回収する係りだ。水深15mの海底でとんでもないものが目に入って来たが、どう見てもタコなのだ。長い手足を振り回し踊っているように見えた。いくらタコがひょうきん族でも昼間から「タコ踊り」するほどヒマではないはず。しかもそんな遠くから見えるくらいだから相当巨大だ。普通のタコは忍者みたいな保護色だから1mくらい近づかないと確認出来ない。数m潜ってよく見ると様子が確認出来た。数十匹の小魚の群れがいて、それを海底から数本の足をムチのように交互に伸ばして捕獲しようとしていた。まるでインディージョーンズだ。そんな捕食の仕方を見たのは初めてだった。普段はカニや貝に上から覆いかぶさって捕食する。5キロはゆうに超える巨大なマダコで、近づくと逃げようとはせずこちらを睨みつけるのだ。モリを打ち込むともの凄い力で引っ張られ、近くの岩の下に逃げ込まれた。引っ張ってもビクともしない。巨大な足がスルスルと伸びてきて腕に絡まれてしまった。これまでには仕留めたことのない大物だ。力も半端ではない。これ以上絡まれると逃げられなくなる。足を思い切り振りほどき一端海上に非難した。腕にはタコの吸盤の後が赤く付いていた。吸引力も強烈だ。予備のモリを手に再度潜った。しかしそれも歯が立たずタコに奪い取られてしまった。とてもじゃないが水中での取っ組み合いは分が悪い。クルーに言った。「おい、ここでタコを見張っているから港に帰ってモリを二本持って来い」。すぐさま船は港に戻った。一人海上に残りタコを見張っていたのだが、逃げ出すと上から丸見えなのだ。タコが岩から出てくるとすかさず潜り、モリを掴む、するとタコはまた岩穴へ避難する。その繰り返しが3回続いたがタコは参った様子はない。やはり狙い済まして急所にモリを打ち込まないと仕留められそうにはない。20分くらいして船が戻ってきた。タコの急所は目と目の間から口にかけてだ。そこにモリを打ち込むと大きさに関係なく参ってしまう。問題はあのデカイタコにそこまでモリが入るかだ。この場合はアイスピックみたいな鋭い一本モリのほうが良い。一本モリを手に最後の「聖戦」に挑んだ。下でタコは待ち構えていた。近づくだけで足を伸ばしてけん制してきた。やはりモリは急所を逸れていたのだ。狙い済まして急所にモリを突き立てた。腕から体まで絡みつかれたが、今度は構わずに体ごとモリを深々と押し込んだ。タコの足は痙攣し、急激に力が抜けていった。3本のモリを掴み引きずり出すと今度は容易に出てきた。吸盤には力が残っていなかったのだ。呼吸は限界で、一気に15mを浮上した。帰港して計測したが重さは覚えていない。6キロは超えていたが10キロまではなかったようだ。パワーのあるマダコにしては最大だ。ヤマハクラブのメンバーで足を一本づつ広げて持って記念撮影したのだが、写真は行方不明だ。足の太さは手首より太く、長さは端から端まで3m以上はあったようだ。足を二本食べただけで全員満腹した。刺身は垂直に輪切りにしてもデカ過ぎた。食うか食われるか、東シナ海のロマンを感じながらもタコの冥福を祈った。ナムアミダコ・・・・