嗚呼!花の応援団 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

 

屋久島に住んでいた頃、仕事と休暇を兼ねて鹿児島へ出て、映画でも見ようかと映画館の前に立った。

上映中の映画は「嗚呼!花の応援団」だったが、「どおくまん」の漫画の劇場版で、学生時代よく読んでいたから懐かしかったな。

 

女優は日活ロマンポルノの女王・宮下順子だったが、主役の青田赤道役は新人だが何処かで見た顔だ。

キャストを見て唖然とした。

「今井均」と書いてある。 ずっこけた・・・

大学の友人の剣道部主将の今井だった。

 

何であの野郎が・・と思いながら映画を見た。

長い学ランにキセルをくわえて「クエ!クエ!くえ~ビックリマーク」「チョンワ!ちょんわ!!」と、ばかばかしくて面白かった。

 

今井は海洋土木科で建設会社に就職していたのだが、何でまた俳優になったのかと友人に電話して聞いた。

今井の会社の近くで主役のオーディションがあり、「どんなバカが来るのか」と冷やかしに行ったら、それがどういうわけか主役に抜擢され、休暇をとって出演したらしい。

 

図体もデカく人相も悪いが彼は行儀の悪い「お坊ちゃま」なのだ。

学生の時からスポーツカーで大学に来るのは良いのだがセンスが悪い。 必ず学生帽に時代遅れのマントを羽織って来るからやたら目立つ。 おまけに酒癖が極めつけに悪い。

 

武道団体の飲み会では酔うと必ず近づく男に強烈な「頭突き」を食らわすのだ。

「ゴーン!」といきなり来るから目から火が出てしまう。

しかも何をやったかも覚えていない。

だから思い切りパンチを食らわせても蹴飛ばしても記憶にないから存分にやり返す。

翌日、せいぜい、あそこが痛い、ここがおかしいとかぶつぶつ言うくらいだ。

 

その今井が男をあげて有名になった出来事があった。

まさに純情物語なのだ。

回りの人間は一切目に入らず恋の道まっしぐらで感動ものだった。

 

大学の前にスナック喫茶があり、クラブの練習帰りの学生で賑わっていた。

そこの新人の女性に一目惚れしたのだ。

夕方の定刻になると今井は必ずそこへ行く。

しかしいつも払うお金は百円だけだった。

 

真っ直ぐにカウンターへ行き彼女の前に座るのだが、「・・」としか言わないのだ。

誰か先客がいようものなら平気でそいつを「排除」する。

野獣の目でじっと彼女の瞳をみつめるのだからたまらない、彼女はいつもうつむくしかなかった。

 

そして・・ 恒例の百円ショーが始まる。

ジュークボックスへ行き、必ず同じ曲をかける。

曲名は郷ひろみの「小さな体験

スナックの客全員が「始まったビックリマーク」と、息をひそめて「その瞬間」をみつめる。

 

「どうしてそんなに綺麗になるの~音譜 僕だけの君でいて欲しいのに~ドキドキ 誰が誘いかけても知らない振りしているんだよ いいね~~~音譜 」・・・・・

 

今井は真剣な顔して彼女を力強く何度も指差しながら「派手な踊りドクロ汗」をやるのだ。

まさに今井一人のワンマンショーだな。

そして・・

曲が終わると、例の趣味の悪いマントを羽織り何事もなかったかのように帰って行く。

それが毎日続くのだから日に日に見物人が増えて

店は 大繁盛クラッカー した。

 

ただし、彼女の前だけは空けて置かないと、誰であろうが襟首掴まれて排除される。

 

二人がどうなったかは知らないが、少なくともあれは凡人ではない。

今も昔もあんな真似が出来る男はいない

映画は赤字だった日活が一発で黒字になるくらいヒットしたらしい。

当然第二作の話が持ち上がったが彼は辞退した。

 

「俺はサラリーマンじゃ、バカバカしくてあんな恥ずかしい事が何度もやれるかパンチ!

 

この名言を残して、土木工事でアフリカ出張の道を選んだらしい。

 

一度、バカバカしくないという今井の哲学を聞きたかったな。