簡単に採取できる野生ベリー | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

5月後半から7月にかけてキイチゴの季節が訪れる。キイチゴは黄色イチゴが語源とも言われるが赤い色もあり、本来は木になるイチゴのことだ。
ほとんどが落葉の低木でバラ科に属し、春に桜の花に似た白い花が咲く。5月中旬から熟れ始める海岸性の「カジイチゴ」、この種は棘もなく黄色がかったオレンジ色の実で、甘くて非常に美味しい。次に同じような実で、棘はあるが甘くて美味しい「モミジイチゴ」、甘いがほろ苦い「ニガイチゴ」、6月に入ると「クマイチゴ」、芳香が強く生、果実酒とも抜群の「バライチゴ」、草むらに生える「草イチゴ」個人的にはこれが一番好きだ。名前は草イチゴで一見草と間違えるがれっきとした木イチゴだ。
初夏にかけては地を這う「苗代イチゴ」、他に「ヤナギイチゴ」「エビガライチゴ」「ビロードイチゴ」「クロイチゴ」「ノウゴウイチゴ」などがあり野山を彩る。大昔から人も獣も鳥たちも、これらの自然の恵みを心待ちにしていた。現在では甘いお菓子や果物などいくらでも手に入るが、何万年もの人類の歴史の中では数十年にも満たない。自身の力で生き物本来の食を得るという本能が失われ、生命線であるべき「自然」の認識も薄れつつある。様々な地球環境問題や食生活から来る健康問題などはそこに起因しているような気がしてならない。これらのキイチゴ類はその特性からスーパーには出回らない。「液果」ゆえ、水分が多くすぐにビチョビチョになってしまう。取ってその日の内に食べるのが一番。一般的に売られている実のしっかりした「イチゴ」は、分類上はメロン、スイカと同じ野菜の仲間だ。「蛇イチゴ」は幼い頃「毒イチゴ」と言われていた。実際は無毒で食べられるが味がないだけでジャムには出来る。全草を生薬名「蛇母」として漢方でも利用される。
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月山林に入ると「フユイチゴ」が地を這って群生している。真冬に野生のイチゴがたくさんとれることは意外に知られていない。多いものは50cmのつるに50個もぶら下がっている。枯葉に埋もれルビー色の輝きを放ち、見つける度に心が躍る。食べ物の少ない冬だからこそそんな気持ちになれるのだろう。生でも甘くて美味しいが、ヨーグルトのトッピングで毎年楽しんでいる。栽培、園芸品種はラズベリー、イエローべリー、ブラックベリーなど多彩で、農園の周りにもたくさん植えてはいるが、自然の恵みを山で食べるのを一番の楽しみにしている。