その日、ミルクディッパーはやたらと混み合っていた。
てんてこ舞いする愛理と良太郎を見かねて、コハナやナオミまでが手伝いに来ている。
店内には、あのいつもの客たちに加えて、初めての顔がちらほらと見えた。
「お手伝いしてるの?えらいね」
コハナを子供と見て、精悍な顔つきの青年は言った。
旅から帰ってきたところだろうか。
大きなリュックのポケットから何やら取り出す。
「はい、これタヒチの子供たちに教わって作ったんだ」
「あ、ありがとう・・・」
戸惑いながらも受け取るコハナに、子供好きらしい青年は、満面の笑みを浮かべた。
「あの、この前お会いした津上ですけど」
柔和な表情の青年が、愛理に話しかける。
愛理は、先日の買い出しで出合った青年を覚えていた。
「あぁー、レストランアギトの・・・」
「お言葉に甘えて、うちのレシピの参考にさせてもらおうと思って」
レストランを経営しているというその青年は、愛理のヘルシーメニューに興味を持ったようだった。
「北岡さん、また俺のこと騙してるんじゃないの?」
「何言ってんだ人聞きの悪い。俺がいつおまえを騙したっていうの」
片隅のテーブルでは、茶髪の青年とビシッとスーツをキメた男が言い合っていた。
どちらかというと、茶髪の青年がスーツの男にいいようにあしらわれているようだ。
スーツの男は、おもむろに携帯を取り出ししゃべりだした。
「ああ吾郎ちゃん、例の件だけど・・・うん、城戸と一緒・・・」
右斜め45度。
コーヒーを運んできたナオミの前で、男は自然にポーズをとっていた。
「西洋洗濯舗です」
やや愛想のない口調で、クリーニングの包みを持った青年が入ってきた。
「あらー、わざわざすみませーん」
津上の相手をしていた愛理が飛んでくる。
「テーブルクロスのシミ、全部落としました」
「よかったー、どぉしようかと思ってたの。さ、こちらでコーヒーでもどうぞ」
相変わらずのマイペース。
面食らう青年を、愛理は無理やりカウンター席へ座らせた。
「こんなとこで睦月に会うなんて、驚いたなー」
キリンのようにひょろりと背の高い青年は、困ったように相手を見た。
「そんなことより剣崎さん、いつこっちへ?」
睦月と呼ばれた青年は、太い眉を上げ必死に剣崎の様子をうかがう。
「昨日。でも、ハカランダに行くわけにはいかないだろ」
睦月は、剣崎がいつ出て行ってしまうかと気が気でない。
「みんなどんなに心配してると思ってるんですか!橘さんも、白井さんも、広瀬さんも、天音ちゃんも・・・相川始も」
懐かしい名前に、剣崎は席を立ちそびれていた。
「ヒビキさん、俺そろそろひとり立ちしたいんだけど」
客として来ていた侑斗は、隣に座る二人連れが気になった。
「なに言ってんだ京介、ちょっとばかし鬼になれたからっていい気になるなよ」
30過ぎの気のいいオジサンが、若人をたしなめているようだ。
こいつ、どこかで・・・
「侑ぅ斗ぉー、遅くなってごめんっ」
飛び込んできたデネブは、「あれ?」という仕草をした。
「デネブっ俺はこっちだっ」
侑斗は、なぜか猛烈に腹が立って、デネブにヘッドロックをかました。
「なー天道、やっぱりフランスの鯖味噌ってのは、こっちと違うのか?」
なぜか制服姿のまま店に来ている警官は、犬が尾を振るように嬉しそうだった。
「おまえは相変わらずだな」
静かにコーヒーの香りを聴いていた青年は、警官をちらりと見て言う。
「な、何が相変わらずなんだよっ」
この警官は、感情の変化がすぐ顔に出るようだ。
「おばあちゃんが言っていた――」
顔を上げた青年は、ひとさし指を天に向けた。
「渡、とーさんが大人のコーヒーの飲み方を教えてやる」
父さんというには妙に若い青年が、隣の少年の肩を抱く。
「父さん・・・コーヒー大丈夫なんですか?」
少年は、おどおどしながらもどこか嬉しそうだ。
良太郎は、彼のことを知っていた。
そう、上着の下に隠れているあのコウモリのことも。
「渡ぅ、たまには俺にも飲ませろー」
「渡さん、ご一緒していいですかー」
どうやら上着の下には、コウモリのほかにも何かいるようだ。
あせりまくる少年を、良太郎はある種の親近感を持って見ていた。
ミルクディッパーは大賑わい。
デネブが自分も手伝うと言い出せば、4タロスも負けじとかわるがわる良太郎に憑こうとする。
ほとんど、何喫茶だかわかんないような状態になってきた。
「10年間・・・かぁ」
まるで何かに導かれるように、今また1人の青年がドアをあけようとしていた。
ああ、タケルくんのパワーって偉大だわ。
握手会の嬉しさに、こんな妄想まで書き上げてしまったわ。
年末スペシャルか何かで、こんなディケイド先行版やってくれないかなー。
弱気になっても落ち込んでても、ライダーがあれば何とかやれるような気がしてきたよ。