昨日、あの人に電話しました。

 

私がした事を言っておかなくては、次にお店にきた時に突然誰かから聞くことにもなりかねず、そうなるとあの人も困るだとうと思ったから。

 

というのは言い訳で、たんにあの人に慰めてもらいたかっただけかもしれません。

 

「ありがとうな」

 

私が事の顛末を話すと、最初にお礼を言われた。

 

「そこまで、俺を大事にしてくれるなんて、ほんま感謝するわ」

 

で、お礼はここまで。

 

「でもな、いくら腹が立ったからといって、それはプロのすることやあらへん。自分の仕事はなにか考えてみ」

 

そうです、私の仕事は、どんなことを言われてもうまく対応しなくてはいけない。

 

「おまえ、こんなことで働いてるんを、親は知っとんのか」

「おまえの親も、ようこんなとこで働いつの黙っとるな。俺が親やったら許さへんけどな。どういう教育しとんのや。親の顔を見てみたいわ」

「俺が説教したるさかい、親を連れてこい」

 

キャバクラ時代、多くの中年男性のお客様から、そんな言葉を浴びせられました。

 

私と親とは関係ない。

私に失礼な言葉を浴びせるのはいいけど、親を馬鹿にするな。

それでも、うまく対応するのが、私達の仕事。

 

「それとな」

 

以下、あの人が言ったことを要約します。

 

その事を言った女の子がどう思うか考えろ。

自分の対応によって、その子に傷が残るかもしれない。その子のケアをすると同時に、客に嫉妬心を煽るようなことを言わないように教えてあげろ。

 

自分にのしたことで、、対象となった相手にも被害が及ぶ可能性も考えろ。

俺やからええけど、これが友達や別の人やったら、自分は辛い目をみることになる。

 

なにより、これから素敵な紳士を育てるんやろ。

こんなことでキレとって、紳士なんて育てられへんぞ。

教える側にそれだけのスキルがないと、本当には人は心服せんのやから。

 

あの人の一言一句が胸に突き刺さって、聴いているうちに涙がポロポロ。

 

「ま、済んだもんはしようがない。気にするな、これも勉強や」

 

もう、涙が止まりません。

 

「で、店からは、なんのお咎めもなかったんか?」

「うん、罰金を取られたくらい」

「どれくらい?」

「1ヶ月のお給料分くらいかな」

 

いつもなら、そんなことは言わないのですが、心が動揺しまくりで、つい本当のことを言ってしまいました。

 

言ってからしまったと、また、あの人に負担をかけてしまう。

なんて、私は情けない人間だと思ったときに、あの人の笑い声が。

 

「授業料にしてはちょっと高いけど、まあ、ええんやないか。それで、これから素敵な紳士をばんばん生み出す思うたら、なんてことあらへんやろ」

 

明るい声に、救われた。

 

少し前までは、どこか危なっかしさと具合の悪いところがあり、「困った人ね」と思うこともありましたが、今は、あの人の方が「困ったやっちゃな」と思っていることでしょう。

 

いつの間にか、あの人は私の前を歩いている。

 

背中を見るって、こんな感じなのでしょうね。

 

「いろいろ言うたけど、俺は幸せを感じてるよ。ほんま、ありがとうな」

 

電話を切る前に、あの人がそう言ってくれた。

 

私は、これまで本気で人を好きになったことがないのかもしれません。それが、今、本気で好きになっている。

だから、お客様につい噛みついてしまったのだと思います。

 

いつもはうまく流すのに、自分でもびっくりです。

こういう自分をわかったので、今度からは冷静に対応できると思います。

 

それに、誰がどれだけ冒とくしようが、あの人にとっては痛くも痒くもない。なのに、私が怒ってしまったら、私があの人を冒とくすることになってしまうし、あの人に危害が及ばないとも限らない。

 

あの人の言葉で、またスキルアップできたような気がします。

 

私も、あの人に置いていかれないように、駆け足で追いつかなくちゃ。

 

 

おやすみ