昨日のニュースでマドリードにあるミシェラン三つ星レストラン『DIVERXO』が今まで395ユーロのテイスティングメニュー(お任せ❓)の価格を450ユーロ、約7万8500円)に値上げしたそうでスペインで一番値段の高いレストランになったそうです。

このシェフはまだ若くここ7−8年で急激に頭角を表し既に今までに3回も世界一のシェフに選ばれています。

スペインはここ20ー30年の間に調理がブームになり今でも料理番組、料理コンクールなどの番組が数多く放送されています。

これだけ調理に人気が出て来ると多くの優秀な若者が調理界に興味を持ち豊富な人材に恵まれています。

そんな事でそれまで昔ながらの素朴で伝統料理がメインだったスペイン調理界が大きな変革を遂げモダンなアート料理を目指す人も多くなり今ではスペイン中で268軒のミシェランの星付きレストランがありそのうち15軒が三つ星です。

短期間でこれだけ多くの星付きレストランが産まれた背景にはこの頃から急激に増え始めた外国人観光客のおかげです。

今まで、気候の良いスペインには北ヨーロッパから冬の温暖な気候を満喫する退職者たちが避寒目的で長期滞在するちょうど渡鳥のような観光でしたが、その後EUが出来、LCCが増え始めると時間のない勤め人、金のない学生たちも短期的にスペインを訪れるようになり避暑、避寒のみならず文化を求め市内観光も増え始めました。

その頃はまだスペインは物価も安く、特にアルコール、タバコ、食費は安いので週末に飲食のためだけに訪れる若者も増えました。

それまでスペインでは街中で酔っ払いを見ることは稀でしたが格安の観光地などでは外国の若者の酔っ払いが夜中中騒ぎ、それらの迷惑外国人が大きな社会問題になり、色々な規制がかけられるようになり今では少し落ち着きました。

しかしこれだけ外国人観光客の数が増えると今までのオーソドックスな飲食店のみでは対処出来ずに多くのファーストフードの店なども出来始めました。

また同時にスペインの伝統料理などをベースにした料理、タパス、ピンチョスなどの前菜料理が最初から最後までそれだけで完結する料理となりその種類も限りなく増えました。

そのせいもあり元々から食事時間にガッリ食べる系であったスペインの食事文化が変化して国際化して来ました。

それらの流れで始まったのがフランス系のアート料理です。

ヨーロッパでは何といっても近代の食の頂点はフランスで料理をアートとして捉える学び場も、食材も、ワインもフランスでしか学ぶことはできませんでした。

そんな事で数少ないスペインの高級料理店はフランスで調理を学んだ人により運営されていました。

それから20年ほどの時間が経ちましたがその間に多くの調理学校(大学を含む)が出来スペイン国内で簡単に調理が学べるようになったと同時に、各ミシェランレストランは50人ほどの従業員を抱え、昔の丁稚奉公と違い休息時間、給料も保証されているようなのでその経費が提供される料理に反映されると言うわけです。

初期の頃のスペインのミシェランレストランの従業員はレストランの近くの寮などで過ごし食費、生活費は要りませんが無給が殆どでした。

ただ有名なレストランで1、2年コックをしたというお墨付きがあれば仕事の少ない時代でも優先的に雇ってもらえるので、学費だと思ってとにかく修行に精を出しましたが現在これだけミシェランの店が増えると優秀な新人が募集できないのか給与、更生関係が良くないと従業員が集まらないのでそれらの経費が料金を押し上げています。

さてここで面白いことに気がつきました。

日本の有名レストランのシェフは殆どが職人で、スペインのミシェランシェフは芸術家です。

さすが芸術の国スペインです。

それらのミシェランの店に入ると先づ最初にその店の哲学を聞かされ、その後各料理が運ばれるたびに説明を受けます。

もちろん説明なしでは食べ方のわからない料理もたくさん出るので説明は必要ですがもう少し説明を短くしてもらいたいといつも思つていました。

ただ私の場合は仕事で行っていたので一般のお客さんのように食事を楽しむ事が目的では無いので多少視点が違うと思われます。

とは言え私には芸術家と職人の区別が出来ませんがどこが境界線なのでしょう?

日本では調理師は昔から今までずっと職人のような気がしますが、スペインの調理師は昔は職人で今は芸術家のようです。

昔ながらの技術を守り続け、その上に時代に合わせた工夫創意で改善しながら現代に至ると思われますが、スペインの場合は創意、工夫した時点で芸術に変わるのでしょうか?

また日本の場合は現実に利用できるものを作るのはみんな職人なのかもしれませんがよく分かりません。

ただ私は個人的には事、料理に関しては芸術家の作った食べ物よりも職人の作った食べ物が好みです。

しかし日本の職人の料理には五感を満足させる要素も入っているのでヨーロッパでは芸術家になるのかもしれません。

また日本ではB級グルメと言われる庶民的でありながら美味しいレストランがたくさんありますがヨーロッパには殆ど存在しません。

もしかしたらヨーロッパではB級とよばれるものは食事では無く餌というカテゴリーなのかも知れません。

もしそうであるならば生命維持だけのために食べるものに時間をかけ、見栄えをよくしたり、美味しくしたりするのは時間の無駄なのかもしれません。

ではそのような高額なレストランに入る人々はそこに何を求めるのでしょうか?

素材代金、時間、人件費など沢山お金が掛かるのは解りますがそれだけの付加価値が果たしてその料理に見出せるのかが問題です。

お金を払ってディズニーで楽しむ、映画を見る、美術館に行く、大衆酒場で一杯やる、など楽しみは色々ありますが、その中でも飛び抜けて高額なのでただ美味しさを求めるだけでは元が取れないのではないかと思いますが、若しかしたらフェラリーなどの高級車を乗り回す人の楽しみ方と少し似ているのでは無いかと思いますが私には理解の範疇を超えています。

このニュースを聞いた時、円安の今日本円に換算してみたら驚く程の値段でしたのでこれを書いてみました。