司法は科学よりも科学的に勝るのか ~「裁判所万能論」を廃す~ | 武藤貴也オフィシャルブログ「私には、守りたい日本がある。」Powered by Ameba

武藤貴也オフィシャルブログ「私には、守りたい日本がある。」Powered by Ameba

国家主権、国家の尊厳と誇りを取り戻す挑戦!品格と優しさ、初志貫徹の気概を持って(滋賀四区衆議院議員武藤貴也のブログ)

司法は科学よりも科学的に勝るのか
 「司法は科学よりも科学的に勝るのか」、判決を聞いて私はこのように感じた。
 4月14日、福井地裁は、関西電力に対して、「債務書(関西電力)は、高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない」という仮処分判決を言い渡した。
 その理由を簡単にまとめると、①基準地震動(700ガル)を超える地震が発生する可能性がある、②基準地震動以下の地震によって重大事故が生じる可能性がある、③使用済燃料が格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められていない、以上三点である。
 そしてその上で結論として、「(原子力規制委員会が策定した)新規性基準は、緩やかに過ぎ合理性を欠く。新規制基準に適合しても本件原発の安全性は確保されない。そうである以上、新規制基準に高浜原発が適合するか否かについて判断するまでもなく、原告が人格権を侵害される具体的危険性が認められる」とした。
 まさに「原子力規制委員会」が議論に議論を重ね策定した「世界一厳しい新規制基準」を、いとも簡単に否定してしまったのである。


日本の英知を結集した原子力規制委員会
 3年前の2012年、東日本大震災の教訓から、二度と原発事故を繰り返さないために、民主党野田内閣において、民主党、自民党、公明党三派共同で「原子力規制委員会設置法案」が国会に提出され成立した。同法に基づいて設置された「原子力規制委員会」は、紛れもなく日本のみならず「世界の英知」と言っても良いくらいの知見を集め、数年の審議を経て「世界一厳しい安全基準(=新規制基準)」を策定した。
 ちなみに同委員会の委員長には、原子炉工学の権威で元日本原子力学会会長の田中俊一氏が着き、委員長代理には東大名誉教授、地質学者で元日本地震学会会長及び元地震予知連絡会会長の島崎邦彦氏が着いた。その他の委員も、地質学者や放射線医学者などを含め、まさに日本を代表する専門家たちが、イデオロギーや党利党略を超えて日本の安全と安心のために着任した。

 田中委員長は同委員会のHPで以下のように述べている。
 「原子力規制行政への信頼が完全に失墜している中で発足する原子力規制委員会は、国民の厳しい目をしっかりと受け止めながら、規制の強化を行うことが責務です。東京電力福島原子力発電所事故への反省を一時も忘れることなく、独立性と透明性を確保し、電力事業者等と一線を画した規制を必ず実現させなければなりません。すべての規制について不断の改善を行い、日本の原子力規制を常に世界最高レベルのものに維持してまいります。放射線による影響の不安と向き合って毎日を過ごしている人がいるということが、私の心から離れることはありません。JCO臨界事故の経験や、これまでに得た知識、私が持ちうるすべてを、原子力の安全を確保するための新たな規制に注ぎこむ決意です。」


裁判所によって犠牲にされる国益
 このように公正・公平・中立な立場で日本の英知を集結し設置された「原子力規制委員会」が、まさに日本の安全と安心のために二年以上も議論を重ねて策定した「世界一厳しい新規制基準」が今回、科学的知見を持ち合わせていない福井地裁によって「新規性基準は、緩やかに過ぎ合理性を欠く」「新規制基準に適合しても安全性は確保されない」「新規制基準に高浜原発が適合するか否かについて判断するまでもなく…」と、いとも簡単に否定されたのである。
 あたかも裁判所が、原子力に関する世界最高の知見を持ち合わせた原子力規制委員会よりも、科学的知見において優っていると言わんばかりの判決である。
 しかも司法の判断は絶対であり、仮差し止め処分は有効で、再稼働に支障をきたすおそれが出てきた。再稼働に支障をきたすことにでもなれば、当然関西電力の経営を悪化させ、それによる更なる電気代の値上げ、引いては日本経済全体の悪化という事態にもなりかねない。
 裁判所は、今回の仮差し止めで生じるであろう国民的損害について補償することはしない。そういう裁判所が無責任に今回の判決を出したことに、私は非常に憤りを感じる。


事実誤認だらけの裁判所~田中委員長の指摘~
 この様なことがあっても良いのだろうか。田中委員長は福井地裁の判決を受けて、「判断の前提となる幾つかの点で事実誤認が有り、新規性基準や審査内容が十分に理解されていないのではないか」と裁判所の判決を痛烈に批判した。
 事実誤認について言えば、例えば裁判所が「外部電源と主給水双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにすべき」と判示したのに対して、田中委員長は「外部電源のところですけれども、外部電源について、SBO(全電源喪失)を防ぐということで、我々は非常用電源とか、いわゆる電源車とかバッテリーとか、色々な要求をしています。外部電源は商用電源ですからCクラスですけれども、非常用電源についてはSクラスになっています。ですから、ざっと見ただけでもそういった非常に重要なところの事実誤認がいくつかあるなと思っています」とコメントしている。

 またもう一つ裁判所の事実誤認について挙げれば、裁判所が「使用済み燃料の給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられるべき」と判示したのに対し、田中委員長は「耐震重要度分類で給水設備はBだと書いてありますけれども、これはSクラスです。…プールの水が無くなったのではないかということが非常に懸念されたわけですね。ですから、プールの水がなくなるというのは非常に重要なことですから、そうならないようにということで、プール自体も、プールに給水するところも、あるいはプールの水を監視する水位計等も、みんな耐震上はSクラスにしています」と判決の誤りを指摘している。

 この他にも判決の内容に関して田中委員長は、幾つも重要な事実誤認を指摘し、既述の裁判所が仮差し止めの根拠とした3点について明確に反論を行い、裁判所は「新規性基準や審議内容が十分に理解できていない」と痛烈に批判したのである。


「裁判所万能論」を廃し、国民の利益を守れ
 裁判所は万能ではない。まして科学的分野においては、研究所を裁判所が兼ね備えているわけもなく、尚更万能とは言えず、科学的見地において確立された事柄に、本来口を挟むべきではない。
 裁判所ができることは、示された「新規制基準」に高浜原発が適合しているかどうかを判断することに尽きる。なぜならば「新規制基準の妥当性」を判断できる能力を裁判所は持たないからである。
 現に「原子力規制委員会」も、福井地裁の仮処分決定によって「新規制基準を見直す必要性は無い」という考えを示している。当然のことだ。間違いだらけの判決に従った方が危険だ。

 関西電力は今回の判決を受けて「速やかに不服申し立ての手続きを行い、再稼働に向けたプロセスへの影響を最小限に留めるべく、早期に仮処分命令を取り消していただくために、今後も高浜発電所3、4号機の安全性の主張・立証に全力を尽くしてまいります」とコメントしている。
 また安倍総理もこの判決が出された後、「原発については、いかなる事情よりも安全性を最優先することとし、原子力規制委員会が、科学的・技術的に審査し、世界で最も厳しいレベルの新基準に適合すると認めた原発について、その判断を尊重し、再稼働を進めていくのが政府の一貫した方針です」と国会答弁を行っている。
 我々政治・行政は今回の判決が出た今、尚更国民の生活が悪化しないよう、最善を尽くしていく必要があろう。


裁判所が間違えた場合はどうするのか
 今回の判決を行った裁判長は、これをもって名古屋の家裁に異動になるようだが、裁判所が特定のイデオロギーや偏見に基づいて判決を行う、あるいは事実について誤認や誤解をして判決を行っていたのでは、「法の支配」は中立性を失い、極めて不公平・不当なものになってしまう。更にそれが国益に影響を及ぼす場合、その損失は計り知れない。
 「三権分立」で言う「立法」と「行政」は間違いを犯したら選挙で否定され権力を失う。あるいは政権が交代し、権力が入れ替わる。つまりいわば「訂正機能」あるいは「引責機能」があると言っても良い。しかし「司法」にはそれがない、もしくは機能していない。唯一存在する「国民審査制度」は、罷免された裁判官はこれまで1人もいないことからもわかるように、実質機能しているとは言えない。裁判所は、いわば「否定さない次元」で絶対的な権力を振るっているのである。
 従って我々国民、特に政治家は「裁判所は全て正しい」という見方を改めなければいけないということを今回の一件で再認識し、更に「裁判所が間違える可能性」に備え、何らかの対策を考えておかなければならないと思う。「国民審査制度」の見直しもその一つだろう。