引き続き「一票の格差問題」を考える。 | 武藤貴也オフィシャルブログ「私には、守りたい日本がある。」Powered by Ameba

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国家主権、国家の尊厳と誇りを取り戻す挑戦!品格と優しさ、初志貫徹の気概を持って(滋賀四区衆議院議員武藤貴也のブログ)

 現在議論が盛んに行われている「一票の格差問題」について、引き続き論じたい。というのも、自民党が現在推進している「0増5減」を実行しても、「一票の格差」が最高裁の指摘する「2倍未満」にならない可能性が指摘され始めたからである。その原因は都市部と地方の人口差が、日に日に拡大しているからだ。現在「衆院選挙区画定審議会」が勧告した「0増5減」改定案は、2010年10月時点の国勢調査の人口を基準にしている。しかし各自治体が今年1月公表した人口(速報値を含む)で試算すると、改定案の人口上位10選挙区のうち9選挙区が2倍を超えるという結果が出ている。そして現在も都市部と地方の人口差が拡大しているため、次期衆院選までに1票の格差がさらに拡大する可能性が高いとの予測もある。

 私はこれまで述べてきたように、そもそも「人口割」を最重要視して選挙区を考えるべきではないという考えである。なぜなら端的に行って、地方自治の重要度、それから面積や地勢等も勘案して選挙区を考えるべきだと思うからである。

 この点につき、興味深い事例は米国の上院である。「法の下の平等」を標榜するアメリカ合衆国の上院は、人口の多い少ないにかかわらず、全ての州から「平等に」2議席ずつ上院議員を選出している。例えば、人口が54万人と最も少ないワイオミング州も、人口が3696万人と最も多いカリフォルニア州も同じ2議席である。両州の「一票の格差」は「67.91倍」にも及んでいる。日本では考えられないこの格差を許している理屈は、どの州にも「自治権」をかなり重く認めるという考え方に基づく。

 合衆国連邦政府を「国連」に例えるとわかりやすいかも知れない。例えば現在殆どの国が国連に各国代表として国連大使を一人ずつ派遣しているが、これは人口や国力にかかわりなく平等に「国家主権」を認めるという考え方に基づく。これについて、裏を返して仮に国連が全て「人口割」で物事を決めてしまう制度だとすれば、人口の多い中国とインドが全てを決定することになる。しかし、それでは「平等では無い」ということで全ての国に「国家主権」を認める今の体制になっている。つまりここで言う「国家主権」が、アメリカの上院が重視する各州の「自治権」を指していると考えることができるだろう。

 日本でも同じように、自治を重要視する観点から選挙区割りを定めた事例がある。例えば鹿児島県では平成23年4月の県議選で有権者数に応じて定数を54から51に減らした。この際、2から1に減るはずの「西之表市・熊毛郡区」については「諸問題を抱える離島地域への配慮」から現状維持とした。地元県議は「過疎地と大都市が抱える事情の違いを考慮し、こういった配慮は必要だ」と述べている。

 さて、論点は違うがもう一つ今の「一票の格差問題」で議論されていない論点を指摘したい。それは現在の「一票の格差」の議論が小選挙区のみで行われており、比例区の議席を考慮していないという点である。これについては平成19年6月13日の最高裁大法廷の判決に付された那須弘平裁判官の補足意見が非常に的を射ている。

 那須裁判官は、国政選挙における投票価値が平等であるかどうかを検討するには、衆議院であると参議院であるとを問わず、「同一の選挙の機会に実施される小選挙区と比例代表選挙を一体のものとして総合的に観察すべきである」と述べている。そしてその理由については「それぞれの選挙人が選挙区の候補者に1票を投じた同じ機会に比例代表の候補者ないし政党に1票を投じ、この2つの投票行動が相まって各選挙人の政治的意思決定の表明となることを重視する考え方によるものである。制度的にみても、選挙区選挙と比例代表選挙とは無関係な2つの選挙がたまたま同時に行われるということではなく、被選挙人の定数や選出母体となる区域等についてそれなりの関係付けをした上で一体のものとして設計されており、当選した候補者は選挙区選出議員か比例代表選出議員かで区別されることなく、同じ議院の構成員として立法活動に携わる制度となっている」と述べている。

 そして那須裁判官は次のように結論付けている。「小選挙区選挙と比例代表選挙を併せて総合的に見ると、小選挙区選挙を単独で見た場合よりも相当程度較差が中和される結果になる。この点につき…試算してみると、小選挙区における最大較差は…1.613倍となる。従って、『1人2票』未満かどうかという基準からは、本件区割規定が憲法違反であるとまでは言えないことが明らかである」。

 私は必ずしも「一票の格差」を「1対2」未満に抑えるべきだとは考えていないが、仮に裁判所の言う「1対2」に抑えるべきだという立場に立ったとしても、那須裁判官の指摘するように比例区を勘案すれば、「1対2」未満に抑えられていると言えるのである。

 そもそも「1.9倍は合憲」で「2.1倍は違憲」だとする根拠は明白ではない。今回の違憲判決は、邪推すれば安倍政権への変化球的な攻撃ではないかとさえ思える。前にも述べたが、立法府は司法の意見に右往左往するのではなく、しっかりと議論を行い日本の国政を行う上でどのような選挙制度が最も良いのかという視点で選挙制度改革の結論を出すべきだと思う。ちなみに私は「0増5減」とかいう小手先の改革ではなく、また比例区を大幅に削減するという改革案でもなく、もっと根底から「二院制のあり方」や「民主主義の正統性」という点まで含めて大局的な大議論を行うべきだと考えている。