さて、先般来触れている通り、高市政権は前のめりになって邪な改憲を押し進めております。
4月12日に開催された自民党の最高機関である党大会では2026年の運動方針が決定され「憲法改正を必ずや実現する」と表明、結党70年を記念した新ビジョンでも「改憲が死活的に求められている」と位置付けられました。
高市首相はこの日の演説で「時は来た」と述べ「国会発議にめどが立ったというべき状態で来年の党大会を迎えたい」と改憲への強い意欲を示しました。
多くの歴代首相が改憲を具体的な政治日程に据えなかったのに対し、これは異例の姿勢と言えます。
何より注目すべきは、改憲に関する次の件でありました。高市首相はこう語りました。
「どのような国を作り上げたいのかその理想の姿を物語るのが憲法です。
私達の物語を、理想の日本国を文字にして、歴史という書物の新たなページに刻もうではありませんか」と。
普通に聞けば、現代の日本人が理想の国を語り「時代に合わせて憲法を改正しよう」という前向きな呼びかけに聞こえます。
しかし、日本会議の文脈で見ると全く別の意味合いを持ちます。
どういう事かといえば「私達の物語」とは天照大神を中心とする『古事記』『日本書紀』の神話・伝承の事であり「理想の日本国」とは現人神としての天皇を中心とした明治憲法的な国体、すなわち、神の国の事であり「文字にして歴史という書物の新たなページに刻む」とは、それを憲法前文に明記する事に他なりません。
これはまさに、日本会議中枢メンバーの伊藤哲夫が主張してきた「古事記、日本書紀の神話・伝承を源泉とする神道的文化伝統を憲法前文に刻む」という事を一般国民に気付かれぬよう巧みに述べたものであります。
この意図は、自民党が2012年(平成24年)に公表した改憲草案を見ればより鮮明になります。
日本会議が骨格を提供したとされるその改憲草案の前文にはこうあります。
「日本国は長い歴史と固有の文化を持ち、天皇を頂く国家である」と。
これはすなわち「日本は『古事記』『日本書紀』から始まる長い歴史とその神話に基づく固有の文化を持ち、皇祖神の子孫である天皇を頂く国家である」という事です。
これが、改憲草案の示す理想の日本国の姿であります。
高市首相は、まさにこの改憲草案の前文の主旨を現行憲法の前文に書き込む事を狙っているのであります。
この高市首相の発言は俗にいう「犬笛(ドックホイッスル)」というものであります。
犬笛とは、人間の耳には聞こえにくい高周波の音を出す犬の訓練用の笛の事で、転じて、一般の人にはわからない特定の人にだけ伝わるメッセージの事であります。
高市首相は自民党大会という公の場で日本会議・神社本庁界隈の支持層に向けて高らかに烽火を挙げたものと見るべきであります。
一般の人にしてみれば、高市首相の改憲の目的は9条改憲や緊急事態条項の新設等の現実的なものでしか見えないかもしれません。
しかし、先般も述べた通り高市政権はまず四項目改憲をなし、その後に日本を神の国にする改憲を狙ってくる可能性が極めて高い。
その事は、高市首相が20代の頃から指導を受けてきた日本会議の中枢メンバー伊藤哲夫自身が明かした戦略を見ればよく分かります。
伊藤哲夫は2016年(平成28年)に『三分の二獲得後の改憲戦略』と題した論文を寄稿し、そこで「9条加憲」を「あくまでも現在の国民世論の現実を踏まえた苦肉の提案」「今はこのレベルから固い壁をこじ開けていくのが唯一残された道」として「その上で、いつの日か真の日本にもなっていくという事である」と述べている。
つまり、いきなり本音を前面に出した改憲は難しいため、まずは実現可能性が高い苦肉の9条加憲をなし、次第に改憲を進めていき、いつの日か真の日本にもなっていく、すなわち、神の国を実現せんとしているのであります。
また、2017年(平成29年)に記した『安倍提案(9条加憲の事)を支持し、実現を求める3つの理由』との論文では
「改憲という目標がいよいよ目前に見えてきたとなれば、攻め方も根本的に変えねばならない。
そして、それをゴルフに例えてそれまでの思い切ったショット(本音)からひたすら正確なパット(現実路線)を打つ攻め方に変え、本音を隠しながら実現可能性の高い改憲を進めていく」という巧妙な戦略を開陳しております。
ゆえに、近年においては思い切ったショットである神道中心の国家や全文改定といった主張を封印し、ひたすら正確なパットである四項目の現実路線の主張に徹している事がうかがわれるのであります。
これらの伊藤哲夫の戦略を踏まえれば、現在高市政権が行おうとしている四項目の改憲はあくまで本音を隠した政治的戦略で、それを成し遂げた上で神の国とするための改憲を行おうと考えている事は疑う余地もない。
これが日本会議の本音であり、周到な策略であります。