Music Train〜旅立ち編vol.3〜
「わぁ、見えてきましたよぉ」
汽車は最初の目的地に着こうとしていた。のどかな平原と田園、広大な農場が至るところに広がっていた。
「牛さんのいっぱいいるところ。なるほど、そういうことだったんですね。」
「ああ、一見牧場だけど、あっち側を見てごらん。ここには、牧場で採れる畜産物を加工する工場もあって、レストランやショップなども経営しているんだ」
「どうりで人がいっぱい。みんなお買い物や観光してるんですね。」
汽車は牧場から少し離れたところに停車し、青々した大地は光を帯びていた。
「車掌、私たちも観光しましょうよ」
「ああ、そうだな。私は是が非でも、こちらのハンバーガーを…ふふふふ…」
「はッ!車掌の眼光が怪しく光っています」
昼食時だからであろうか。牧場は多くの人で賑わっていた。
「車掌みてください!うさぎに餌やりですぅ。お口ムシャムシャしてますよー。もふもふー最高ー。」
「うむ。小動物が1人と1匹いるということがよく分かった」
様々な動物と触れ合い、牧場グルメを堪能しながら、草木もゆる牧場の園を眺めた。
もともとひとりで行くはずの汽車の旅。
行方知れずの師を探すという雲を掴むような目的もあるが、願わくばこの子の記憶が完全に戻り、在るべき場所へ帰してあげる旅でもある…か。
「車掌ー。車掌ー。ここステージがありますー♪」
「ああ、イベントがある時には使われるのかな。これだけ人が集まるのなら盛り上がりそうだね。」
「こほん。では私が一曲。」そう言って、彼女は突然歌い出した。
「♪いきとしいける すべての生命へ
音を届けよう 笑顔乗せて♪」
その歌声は牧場を包み込むように響き渡った。人がひとりふたり立ち止まり、気が付いた頃にはたくさんの人集りが出来た。
「これは驚いた。」
皆には見えているのだろうか。辺り一体を光の粒のような無数の輝きが広がっていく。
「まるで魔法だ。」
歌い終わった頃には、その幻想的な風景はなくなり、拍手喝采が起きていた。
「えへへ、ありがとうございます。」
その後、彼女がギャラリーにもみくしゃにされるのを眺め、一騒ぎ終えた後、私たちは汽車に戻っていた。
「燃料が満タンになるには、2〜3日かかるから、それまでのんびり…」
燃料計をみて、言葉を詰まらせた。
「…満タンになっている…。…あれか!」
私はあの時、まるで流星群のように舞い上がった光の粒のことを思い出した。
「これはとんでもない、拾い物をしたのかもしれない。」
そう呟き、満腹になり満足そうにシートでグースカ眠る彼女に目をやったのだった。
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