Music Train〜旅立ち編vol.1〜
「シュポーーーー」高々と汽笛が鳴る。空高く届けと言わんばかりに。
あの人が生涯をかけたとも言えるこの作品とともに、共に旅立つはずだった。希望に満ちた機関室の動力音をひとり聞いていた。
「これは人の想いで走るんだ。動かされた人の想いの数だけ新しい世界が待ってる。想いを乗せて走る、Music Trainだ。」
そう言い残し、作品の完成とともに忽然と姿を消した。
これから未知なる世界へ旅立つ。あの人の想いを乗せて。
目的地までの燃料が十分であるのを確認し、小綺麗な古欧風の乗客室を点検している時だった。
朝日が車窓から優しく差し込む乗客シートの上に、横たわる女性の姿をみつけた。
「だ、大丈夫ですか。」
女性は静かに瞳を開けた。
「…ここは。あなたは。」
「私はこの汽車の車掌です。これからこの汽車は発車する予定です。乗客室には鍵がかかっていたはずですが。どこから。」
「…。分からないです。」
明らかに不自然な間があった後、なぜ車内で眠っていたのか、どこから来たのか、全く思い出せないことを告げられた。
記憶喪失だろうか。彼女の身に一体何があったのか、半信半疑に思いつつも、行き先も帰る場所も分からない女性を放っておけず。考え込んでいると。
「私をこの汽車に乗せてください。汽車は様々な土地を巡るのですよね。もしかしたら、何か思い出すかもしれないです。」
「しかし、決して安全な旅とは言えませんし。」
「大丈夫です。お手伝いもします。お願いします。」
強い意思を思わせる彼女の眼差しに、あたかも以前から彼女のことを知っていたような、不思議な感覚を覚えた。
ともかく、このままこの研究所に置いていくことも出来ないと思い、同行を了承した。
かくして謎の女性を乗せた、汽車の旅が始まったのだった。
be continued...