挑戦の紅白だった

 

 明けましておめでとうございます。そして、令和6年能登半島地震で被災されている皆様へお見舞い申し上げます。

 今年も紅白含め、NHKの音楽番組の魅力の紹介を始め、日本の音楽についての魅力を伝えてまいります。

 と言うわけで、新年初のブログ記事はこれから書こう。「第74回NHK紅白歌合戦」の筆者的総評だ。言いたいこと(演歌・歌謡曲とK-popなど)は来週(1/16)のブログ記事にて皆さんの力を借りて行いたいことと共に書こうと思う。今回は純粋に筆者の興奮した部分を多く書こうと思う。

※以下「今回」と表現しているものが「第74回NHK紅白歌合戦」だ。

 

 視聴率から見る紅白

 今回の視聴率が前半(1部)が29.0%、後半(2部)が31.9%だったことに多くの意見が飛び交っている。今回は特異的でSMILE-UP.からの出場者が0で、K-popがそれを埋める形で昨年より2組多く出場した。更に、松任谷由実や桑田佳祐、安全地帯など老若男女問わず大人気の歌手、所謂、特別企画でのビックネームがいなかった。

 筆者は約30分毎にリアルタイム視聴率を確認していたが、決定的に下がった部分はNew Jeansだった。また、下にも書くが”紅白感”が薄れていた今回、リアルなライブ感はあったが紅白ではないような部分があった。

 まとめると「K-popの最多出場」と「”紅白感”の薄さ」が視聴率低下の要因だと考えられる。しかし、どの歌唱も演出も民放では見ることのできない素晴らしいものだったことは言っておこう。

 下の図は、リアルタイム視聴率で記録された数値から、正式な視聴率へと換算したグラフだ。

 特徴的なことは、視聴率が下がることなく上がっていることだ(各部の放送開始地点よりも下がっていないことを指す)。一方で「第65回輝く!日本レコード大賞」は視聴率の波が大きく、下がっていく時間帯が多くみられており、大賞発表時に吐出して視聴率が上がった形となった。更に、紅白はラジオ第1、BSプレミアム4K、BS8K、NHK+で放送されているため、放送媒体の多様化で分散した可能性もある。事実、YOASOBIの歌唱後、X(旧Twitter)で「#YOASOBI」が世界トレンド2位となったのは紅白が注目されていたことに尽きるだろう。

 このようなことから、紅白にはまだ希望が残っているともいえる。一部世代だけが知っている歌手を多く出場させるのではなく、世代問わず誰もが知っている歌手を出場させることが必要だろう。そういう点から言うと、テレビ放送70年企画「テレビが届けた名曲たち」のような選考を行うことで、視聴率が戻ると考えられる。

 しかし、視聴率よりも視聴していた人が納得していることが大切となる。それでは中身を見ていこう。

 

最高な「グランドオープニング」

 第73回(2022年)は舞台の後ろからの登場と比較的シンプルであったが、今回は出場歌手それぞれの魅力や観客も含めた豪華なオープニングとなった。

 まだまだ若手のNiziUが縄跳びダンスからホールの扉を開けるとベテラン歌手・郷ひろみと石川さゆりが出迎え、初出場のanoとMISAMOをカメラが映し、階段の先には鈴木雅之と言った流れで進み、純金のけん玉で可憐に技を決めた三山ひろしから新しい学校のリーダズが階段を下り、エレカシ・宮本浩次とゲスト審査員で「ボーダレス(borderless)」の文字をつくり、カメラは舞台へ。

 そこから、これのために呼ばれたかのようにニセ司会・大泉洋が話し始め、舞台天井から司会・有吉弘行、橋本環奈、浜辺美波が登場すると言うミュージカルやコメディー要素も取り入れられたオープニングに、筆者は紅白の舞台へ吸い込まれた。

 これは、錚々たる歌手が集まる紅白の醍醐味のような始まり方だろう。

 

注目歌手6選はどうだった?

 筆者が12月26日に公開したブログ記事「筆者的注目歌手6選」で挙げた歌手、紅・白それぞれ3組を最初に見ていこう。

↓↓ブログ記事↓↓

■伊藤蘭|キャンディーズ50周年 紅白SPメドレー

 生演奏・生歌唱と言うリアル感が伝わる歌唱であった。伊藤蘭のマイクの音の拾いが悪かったが、それでも上手さが感じられるのは、昭和の音楽番組で鍛えられたからであろう。最もよかった部分は「紙テープ」での演出だ。現在のライブでこのような演出を行うことは少なくなった。桑田佳祐も自身のラジオ番組で「紙テープ」の良さを語っていた。そんな演出を令和の紅白で見れるとは想像もしていなかった。それも含めて、昭和にタイムスリップできた歌唱だった。

■大泉洋|あの空に立つ塔のように

 大泉洋が紅白で初めて司会をした第71回(2020年)の紅白では前半のトリに五木ひろしが「山河」をスモークの中歌唱したことを今でも思い出す。今回はそれに匹敵するような歌唱だったように感じる。盛り上げるべきところは盛り上げに徹し、歌唱はしっかりと観客・視聴者を虜にできただろう。

■NiziU|Make you happy

 新たなステップへと踏み出したNiziUの息の合ったダンスと歌唱は初出場よりも洗礼されたように感じた。紅白の良いところは多様な音楽が混ざり合うところ。JUJUが「時の流れに身をまかせ」をしっとりと歌い上げ、カメラが観客の方向を移すと観客席中央にNiziUがスタンバイ。そこから舞台に向かって歌唱してくる部分は紅白ならではだろう。司会・観客・ゲスト審査員を一つにした演出の後、ラップの完成度とカメラワークに拍手だった。

■藤井フミヤ|TRUE LOVE、白い雲のように

 白組のトリ前であった藤井フミヤ。ギター片手にそこまで伴奏が入らず歌唱していた「TRUE LOVE」は3生(生歌唱・生演奏・生中継)の極みのように感じた。そして、「白い雲のように」は緊張感が全身から伝わる有吉弘行とそれを優しさで包み込むような藤井フミヤの感動的な歌唱が、歌詞のマッチして第73回(2020年)とは一味違う歌唱だった。

■緑黄色社会|キャラクター

 まだ紅白に2回しか出場しておらず、高校生吹奏楽部・チアリーディング部とのコラボも初めてだった緑黄色社会であったが、明るく楽しいエールソングをより明るいものへと変貌を遂げ、”生音”の良さが光る歌唱だった。やはり、紅白は人海戦術が得意であることを感じるシーンが多かった今回でも上位に君臨するパフォーマンスだった。

■山内惠介|恋する街角

 先んじて中継された天童よしみは通天閣が見える位置から歌唱したいがため、一般の方が多く見守っていた。これはこれで悪くはなかったが、山内惠介は商店街を封鎖し、店の人と芸人のパフォーマンス、花柳糸之との豪華でありコミカルな演出も紅白ならでは、山内惠介も芸人に負けず「この衣装、いいっしょ!」が見事に決まり、明るく華やかな歌唱であったことには間違いない。演歌の扱いについては来週(1/16)に書くこととして、この演出ができるのは、演歌歌手がJ-pop歌手以上の歌唱力と場数を踏んでいるコンサートがあってこそだ。だからこそ、替え歌する部分もコンサート感があってよかった部分であり、動きながら、テンションも高かった歌唱で歌唱力が落ちずに安定していたことは山内惠介の技術の高さが光った歌唱だった。

 

  カメラワークで魅せた歌手

 紅白のカメラワークは日本一だと筆者は思っている。今回の紅白は例年以上にワイヤレスカメラを多用した印象だ。このカメラは成功すれば素晴らしい評価となるが、画面が固まるなど失敗する部分も多くある。筆者的カメラワークで魅せた歌手の1位、2位をここでは書く。

2位:エレファントカシマシ|俺たちの明日

 彼ら(宮本浩次)が民放の音楽番組に出演すると画面から消えることがよくある。今回もどこまでがリハーサル通りで、どこからがアドリブなのかが分からない程、NHKホールを広く利用した歌唱となった。しかし、宮本浩次がしっかりと画面に収まっていたことは撮影部に拍手だ。最もよかった部分は舞台に戻るときの階段だ。あそこで転ばず、宮本浩次を舞台まで撮影できたことに驚きしかない。また、あれだけ動いて音程が外れないボーカル・宮本浩次の凄さも感じられた。

1位:BE:FIRST|Boom Boom Back

 例年であればカメラワークがよりよくなるのは温まってきた”後半”が多かった。しかし、今回は度肝を抜かれた。それは”前半”の真ん中に1カメで1曲歌唱したからだ。BE:FTRSTの歌唱力とダンスの上手さは近年の男性ダンスボーカルグループではトップクラスだ。その歌唱を支えるが如く、カメラワークで支えた。この歌唱は観客をのみ込み、ミュージックビデオを見ているような完成しつくされた歌唱を紅白と言う日本トップの音楽番組で成し遂げたことはグループとしてもテレビとしても新たなステップに入ったと言うことだろう。

 

やっぱりイイ!演歌・歌謡曲

 近年は民放の音楽番組に押され、紅白でも演歌・歌謡曲を聴けなくなってきた。しかし、上でも挙げた伊藤蘭や山内惠介のように今回出場した歌手の歌唱は心に沁みるものがあった。最もよかった2組を挙げよう。

■JUJU|時の流れに身をまかせ

 「スナックJUJU」が大きな話題となり出場を果たしたJUJU。勿論、歌唱も昭和歌謡だった。歌唱楽曲は生誕70年と日本のテレビ放送と同じテレサ・テンの名曲「時の流れに身をまかせ」だった。ストリングスを含めた生演奏で、自身も愛している曲のカバーと言うことで、情感たっぷりの歌唱に魅了された。

■坂本冬美|夜桜お七

 例年ならこのダンスは違うグループがやっていたと推測されるが、JO1とBE:FIRSTは筆者が思う昨年の男性ダンスボーカルグループの2代巨頭がコラボで盛り上げた。坂本冬美の歌唱力は言うまでもない。それを陰で支えることに徹していたことに感動した。更に、ダンスに合うようにビート感を意識した編曲となっており、演歌をより一段上のレベルへ替えられたように感じた。この勢いで、民放の音楽番組に演歌歌手だコラボでもよいから出演できるとより紅白に演歌歌手が出場できるのではないかと感じる。

 

 特別企画はどうだったか

 第73回(2022年)の特別企画は大物歌手を出場させるものとなっていた(それが悪いわけではない)。しかし、今回はそうではなく、コンセプトがはっきりしていたように感じる。クイーン+アダム・ランバートとNew Jeansは国を超えた「ボーダレス」を表現し、ハマいくはテレビとSNSの「ボーダレス」、YOSHIKIはバンドの垣根を越えた「ボーダレス」、ディズニー100年とテレビ放送70年企画は世代を超えた「ボーダレス」を表現していただろう。

 その中でも「ディズニー100年企画」は民放の音楽番組でも行っていたがそれとは違い「これが見たかった」と思わせるような豪華なステージだった。最後の「小さな世界」は世代・性別・国籍・ジャンルを超えた正にディズニー映画が提示している「ボーダレス」を提示できたように感じる。

 更にテレビ放送70年企画「テレビが届けた名曲たち」はポケットビスケッツ&ブラックビスケッツが揃っての歌唱。近年若者にも人気となっている楽曲を新・旧ダンスの振り付けを交えて行えた。また、寺尾聰が久しぶりの紅白で「ルビーの指輪」を歌唱。編曲を行った井上鑑を含めた豪華バンドメンバーで臨場感たっぷりの歌唱は印象に残った歌唱の一つだ。

 

"挑戦的”な紅白だった

 出場歌手の歌唱はどれも素晴らしいもので、上では書ききれなかった。これ以上、淡々と書いているとキリがなくなってくるので、これで最後にしよう。

 コロナ禍に突入した第71回(2020年)からスタジオでの歌唱も多くなった。今回は「年の瀬中継」と題し、日本全国から歌唱を行った。どちらも出場歌手や歌唱曲目の内容を見つめ、出場歌手と共に創り上げていたため、素晴らしいものではあった。しかし、「紅白感」と言うものが薄れたようにも感じた。

 また、近年はダンスボーカルグループが多く出場し、歌唱よりもパフォーマンスが多くなっていたが、今回はバンドの歌唱や生演奏と言うものが増えたことも印象的だった。更に、初出場の歌手が前半に固まっておらず、後半にも多く歌唱していたことも印象的だった。

 「第74回NHK紅白歌合戦」は世情も暗い中、様々な問題との戦いが制作側にはあっただろう。そのピンチの紅白を利用して様々な「挑戦」を行ったように思える。それは、今後の紅白のためでもあり、テレビのためでもあるように感じる。その流れを今年放送される様々な番組で活かしていってほしいと視聴者として願う。実際に、紅白で使用した舞台セットは再利用していくようだ。

 さぁ、今年もあと358日で「第75回NHK紅白歌合戦」だ。それまでにやらなければならないことが多くある。その一つを来週のブログ記事で行おう。

 

紅白への意見・要望は当ブログのコメントやSNSではなく、NHKへお願いしたい。制作側に意見が行くことで、紅白をより良い番組へとすることが出来る。