Grace design M101

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前回のライブで生の破壊力を思い知ってからと言うもの、なにかDAW上で完結する作曲が馬鹿馬鹿しくなってしまい、急に機材やプラグインの興味が失せてしまいました。
勿論そちらの仕事も多いので、興味があろうが無くなろうが使いこなすのは義務なのですが。
しかし興味が失せてしまったものは仕方がありません。

これまでもこれからも自分は軸足としては現代音楽の作曲家なので、自分の作品だけに限ってもコンサートで聴いた回数は数えきれないし、相応の回数の出演もしている。
正直言って生半可な生演奏は精度が低すぎて、DAW上で(ほぼ)完璧にコントロールされた作品の再生に比べて、(生演奏は)自分の中では芸術性という意味で一段低いステージとして認識していました。
いや、今でも例外的なものを除いてその認識は変わりません。

ところが先日の「Darkmatter」や「Planck」の演奏を舞台上で聴いて、そのような認識は見事崩壊しました。
人類の限界にまで到達せんとする超絶技巧を要するこれらの曲をあそこまで精度の高い演奏を間近で見て、人生で初めて「生演奏」の神髄を見ました。
何でもかんでも生が良いとは全く考えない自分ですが、極限まで突き詰めればやはりデジタルの世界は無力であると思い知りましたね。
そのような生演奏が世界で年に何回くらいあるのか分からないけれども。まぁ殆ど無いですね、今までの経験だと。
演奏者が再現芸術と言って差し支えないレベルにまで作品の価値を引き上げてくれるのが条件ですが、そのような空間を演出できる曲を作っていこうと今強く思います。

さて、前置きが長くなりました。
いきなりですが今回ご紹介するのはマイク・プリアンプのGrace design M101です。


 これは1chのマイク・プリアンプ。マイク・プリアンプはマイク入力が付いているオーディオインターフェイスには必ず付いているものですが、やはり餅は餅屋。
専用のマイクプリの方が高音質で録音出来ます(一部の超低価格ものを除く)。

最近このM101やこれのランチボックス向けモジュールM501が妙に人気なので、今まで使ってみた感想などを書いておこうと思います。

M101の左側から軽く説明していきます。

HIZ:エレキギターやベースを直接入力出来る。ここにシールドを刺すとマイク録音は出来ません。あくまでも1chです。

48v: いわゆるファンタム電源です。コンデンサーマイクを使う時に押します。DPAの4003のように130vを要する特殊なタイプもありますが、通常これで殆どのコンデンサー型マイクを扱う事ができます。後述しますが、リボンマイクを使う為にこのマイクプリを選ぶ人も多いのですが、その際このボタンは絶対押してはいけません。

input gain:入力したソースを10~65dBの間でゲインが出来ます。5dBごとのステップ型。

LED:緑と赤に灯ります。注意と言うか留意しておくべきポイントとしては赤に点灯したからと言ってレベルオーバーをしているわけでは無い事。点灯した時はもうすぐ割れますよー注意して下さいね~と言うサインです。

TRIM:こちらはアウトプットゲインで、inputとは異なり無段階です。

ribbon:ある意味この機材の目玉的機能です。リボンマイクに最適なインピーダンスに設定出来ます。(20kΩ)また、普通のダイナミックマイクに仕様する事も出来るのがとても美味しい。
ダイナミックに使うと輪郭ができてヌケが良く感じます。

HPF:ハイパスフィルター、ローカットです。75Hz以下をカットします。-12dB/oct。


写真にはありませんが背面はマイクインプット、アウトプットはアンバランスの出力1
バランスアウトはTRSタイプとキャノンタイプがそれぞれ1つずつあります。

音質ですが、非常にナチュラル。millenniaやearthworks等と同タイプです。勿論それぞれ違います。
Graceは高域が特に奇麗に録れる印象です。他の原音忠実型と比べるとやや低域が薄く感じる事もあるのですが、繊細な楽器には寧ろ好印象です。
原音忠実ですが、ディテールを余す事無く顕微鏡で覗いたように録れる、と言うタイプではありません。原音に忠実ながらも扱い易いように適宜にトリートメントされた様な音です。
一部の現代音楽のような原理主義的な音を欲する場合を除いて、多くの場合この傾向は好感が持てるはずです。

あまり意味が無いかもしれませんが、周波数特性はかなり優れていて例えばマイクインプットでは
@40dB Gain -3dB・・・4.5Hz~390kHz。
-0.5dBまで精度を上げても10.5Hz~140kHz。かなりの高スペックです。
この価格帯では出色だと思います。
クラシック録音でも充分使える音質だと思います。
勿論他のジャンルでも幅広く使えます。

パンチーなNEVEの音が欲しい、エッジーなAvalonの音が欲しい、など明確な意図が有る時は代えが利かないのですが、そうでない場合はこのM101のような原音忠実型の癖が無い高音質のマイクプリで録音しておき、百花繚乱のプラグインで調整するというのがクールな気がします。
今のプラグインは質も量も凄い事になっているので、このような無味無臭(に近い)プリが大活躍します。

ちなみに大人気マイクプリアンプのISA oneはM101より高域に癖がありやや硬い印象です(選択するインピーダンスにより差異はありますが)。ナチュラルさと言う意味に置いてはM101の方に軍配があがります。

一言で言うと非常に扱い易い音で録音出来るマイクプリですね。