シャムキャッツ 『TAKE CARE』 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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スローモーション イズ ビューティフル

シャムキャツの無駄に心地の良い曲に揺られてたら何時の間にやら時代から切り離されていた。ふとした時、彼らの視線を感じるが、どうも僕たちとは違う高さから注がれている気がしてならない。一体何処にいるのだ。

ホタルの点滅の様なゆったりとしたパルス。感覚を呼び覚ます様なギターのメロディー。そこに囁くような夏目知幸の歌声が流れる。本作から見えてくるものとは“在りし日の風景”である。否が応でも僕たちの目はその部分にフォーカスされていく。

彼らが奏でる、ロックというものの表面を撫でるような緩やかなビートからは、今の日本が失ったスローライフを思い出させる。「GIRL AT THE BUS STOP」や「PM 5:00」は、確かにある景色を切り取ったものが歌詞のモチーフだが、どの年代でもあり得るようなキーワードを持っているからこそ懐かしさも感じる仕掛けになっている。




しかし、普遍性を持つ歌詞だから落ち着くという印象とは別に、そういう歌詞を歌うこと自体が自らの世代としての主張をはっきりと表し、昔と今を線引きすることになっている。それは、僕等が昔と同じシチュエーションを体験したとしも、そもそも感じるスピードが大きく違ってしまう。そんな壁が立ちはだかっていることを伝えたいのではないか。現代風に言えば、SNSのタイムラインの様に一秒前にあったことは一瞬で過去になる今は、それを噛みしめることすら許されない時代であることを証明している。そうなることを望んだのは僕たちかもしれないが、争うのも人間の性である。だからこそ彼らはゆるやかに、でもくっきりとその時間軸から残したい景色を破りとる。

言うなれば、スローモーションなポップミュージックと称することが出来るのではないか。それは、単にゆっくりとしたメロディだという意味だけではない。彼らの曲は、このスピード社会で一瞬の魅力的な場面を切り取り、ゆらりと音楽で伝えるのに長けていると思うからだ。まるでストロボ写真に写ることを見抜いているように放り投げられるシャムキャッツなりの石つぶては、この2015年に必要なアンサーだ。

でも、同時に最も危険な回答でもある。彼らはここで佇み、そのこたえを歌い続けることで受ける罰を理解しているだろうか。つまり、これからも彼らのスピードとは裏腹に周りは倍速で移り変わるからだ。
結果的に、その場所は時間から取り残されてしまうかもしれない。

もしそうなるなら、それはこの社会の罪だとも言えるのだが、彼らの答えはあっけらかんとしている。
”どんな注意も聞き入れるな!”「PM 5:00」
リアルな人からリアルでない人、外野席まで、注意という御言葉が盛んな今日だからこそ、その言葉自体に気をつけなければいけないという絡まった社会で、この歌詞がヘヴィーに伝わってくる。
つまり、それが「TAKE CARE」に込められた、このバンドなりのシニカルな、社会に対しての提言なのだ。

まだまだスローモーションを続ける覚悟はあるんだね。それでこそ、ロックだ。彼らには、この世界の移ろいが異なったスピードで見えているのだろうか。たとえば人間の目では無く、猫の目で見つめるかのように。その視点からは、僕たちが渇望して止まない景色が広がっているに違いない。


TAKE CARE/シャムキャッツ

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