踊ってばかりの国「SONGS」 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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最近、彼らの曲で心が締め付けられてしまう。もちろん気持ちの良い音楽ではある。おそらく、僕自身の心が汚れすぎて、美し過ぎる歌詞に、対処出来なくなってきたのだろう。

いつも安易な切り口になって申し訳ないのだが、3.11以降誰もが形のないドス黒い何かに向き合わざるを得なくなった。《この島国が踊った日から/何万という命が消えた》「セシウムブルース」~セルフタイトル・アルバムより~





奇しくも、バンド名とリンクしてしまったそれを、彼らはシニカルな歌詞のネタにし、相反するスタンスで大きなLOVE&PEACEを掲げた。その見えない何者かに立ち向かう姿には拍手しかない。震災以降、復興という言葉だけが闊歩して4年がたった。脱原発という理想郷はまだまだ遠い。毎年3月11日に震災を考えようという特番を放映する暇があるなら、いっその事その日を法律で、日本中の電気使用禁止日に決めてしまえばとさえ思う。

そんな中産み落とされた『SONGS』は僕たちに何を伝えてくれるのだろうか。
冒頭のocean(intro)曲名通り、波の音と教会でのパイプオルガンの調べで始まる。
その海辺の教会から僕は、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)の
「Have You Ever Seen the Rain?」(邦題:雨を見たか)を想起してしまった。ご存知の通り、歌詞の「rain」はベトナム戦争時投下された、パナーム弾をさしているという。この意味を知らなければ、いたって爽やかな夏の雨を見せてくれる曲だ。同じように、この作品の始まりもそんな予感を感じさせてくれるものだ。

「君を思う」は彼らお得意のサイケデリック感が溢れ、徐々にスイングしていくリズムと美しいメロディーが賛美歌的な意味合いを強くしている。
「ガールフレンド」正に60sロックンロールというべき楽曲。
「OK」エレキギターが歪み、下津光史の声が割れ響く、70sロックを彷彿させる楽曲。
「口づけを交わそう」南の島を思わす、オルガンの調べとピアノとの交差が楽曲にロマンティックさをプラスしている。
「時を越えて」ツービート感がはね続け、ブルース・ギターが際立つシリアスな楽曲。
「Hero」ハーモニカの音色とともに、フォーク・ロックの叙情詩といえる曲。ゆっくりと追憶と悟りを繰り返す歌詞。本作のハイライトと言っていい。
「太陽」と「あなたはサイコパス」は、アルバムの中でも、バラードサイドな曲。踊ってばかりの国というバンドの存在価値を再度提示している楽曲。
「赤い目」ラグタイム風なギターが印象的な怪しくも、ダンディーな楽曲。
「唄の命」はRCサクセションを思わす始まり。突き進んでいく様をあわらしている、行進曲的な楽曲。今このバンドの核となり、且つ下津自身の最も伝えたいことが詰め込まれた曲でもある。
ラストの「ほんとごめんね」再び、今の時代にまい戻ったように、古典的匂いを残しつつ、オルタナティヴなロックを響かせて作品は幕を閉じる。

全体的にロックの歴史を正しく踏襲した楽曲が占めているが、おそらく、同じような曲調の曲を別のバンドがやったとして、意味はなさないだろう。下津がこういう曲をやる意味はもっと根深いところにあるのではないかと思う。
そう思った理由は、前々作のタイトルが何故「FLOWER」だったか、ようやくわかったからでもある。
それは、アメリカで60s中期に起きた社会現象「フラワームーブメント」に繋がっているのだ。
その運動は、ベトナム戦争に反対する動きであり、ロックはそれの主導的存在だった。今彼の思想は、フラワームーブメントに起因しているのだと僕は思う。
だから、その時代の曲をモチーフにし、タイトルにもして、「花」というキーワードを大事にしているのだ。

今なぜそれを重要視する必要があるのか。それはすでに「話はない」の《別に話はないけれど/戦争が終わったことを知らせてほしい》という歌詞に答えが示されている。





そう、まだ戦争は終わってないのだ。中東の不安感は高まる一方でテロ、紛争は絶えない。日本でも沖縄の米軍基地問題の解決への道はまだ見えない。ただ、踊ってばかりの国が、下津光史が、今やる事はたった一つなのだ。

《僕が歌っているという事/今を生きているという事/それを君が聴くといい事/唄の命が生まれるのよ》「唄の命」

それは唄の命を生みだすための種、SONGSを撒き続けることなのだ。

綺麗ごとを言いすぎたようだ。最後に戯言を呟いて終わりたい。昔の日本を取り戻すためとか、アベノミクスとかいっているが、過去を復活させることは出来ない。前に進むしかないのだ。それと、半径5m以内の子供を救えない人が何故1億5000メートル先の子供を救えるのだ。先に目の前の日本の子供たちを救うべきじゃないだろうか。

まずは、この踊ってばかりの国の作品を耳をかっぽじって聴いてほしい。そして、目を見開いて現実を見てほしい。

二流の人間だからわからないよというあなた。大丈夫。これを語っている僕は三流以下の人間なんだから。