BUMP OF CHICKEN/RAY-その3:僕の最高の友達 | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
音楽ブログです。更新不定期。

新作RAYのレビュー、ついにその最後の記事となりました。たくさんの反応があって、ありがたく、そして嬉しい限りであります。
それでは全曲レビュー後編、最後までお付き合いお願いします!

8.トーチ
軽やかなギターと共に発せられる悲痛な片想いの歌(=トーチソング)が告げるのはアルバムのB面の始まり。ここから物語の主人は君を物理的に離れて、やっと歩き出す。名バラードを経て、ここでも尚元気なバンドサウンドが安心感をくれる。

醜い思いが身体中暴れて 昨日と明日に爪を立てたら
笑いかけて欲しい 僕の中 いなくなった場所から
そこから今でもここに届く すぐにでも心を取り戻せる
-そこから離れていけるように 1ミリも心は離れない


サザンクロスから続く約束と変化の三部作で歌われたメッセージはここにも繫がっている。どれだけ離れても始まりは失くならないし、だからこそ僕らは過去に囚われることなく、君のいた場所から離れ、前に進むことが出来ると藤原は歌う。そんな強くて、清純な思いの最後に歌われる「会いたい」の歌詞が真っ直ぐに胸に響く・・・間違ってもここには流行りの「会いたい」系JPOPの匂いは感じられない。

9.smile
震災の復興支援のために急遽発売されたシングルのバンドアレンジver。重厚なイントロから一転して、ゼロと同じく、極めて至近距離に、真正面から、バンプと向き合っているかのような印象を受けるギター1本の演奏。2番からは四人の力強い演奏が藤原の叫びを支える。
特に終盤の藤原の「ああ~」の連呼には胸を揺さぶられるものがある。虹を待つ人と同じくの言葉にならない叫びである。藤原はどんな時でも「未来は明るいよ」、「がんばろう」なんて言葉を選ぶタイプの人間ではない。
日本人にとってここ数年で最も悲劇的だったあの事実を目の前に、彼は文字通り言葉にならない思いをサビにしたのではないかと思われる。
そして、歌の後に続くのは三分を超えるアウトロである。これが本当にかっこいい。おそらく、「未来は明るいよ」という苦しいメッセージを言葉で表現するのではく、希望の光を帯びたような演奏によって、彼らは表現したのだと思う。バンプにおける長い間奏といえばEver lasting lieが思い浮かぶが、あの頃の演奏とはもはや比べ物にならない。本当にうまいバンドになった。

10.firefly
鋭いギターのイントロ。smileと同じく、洗練された演奏が、繰り広げられる。紆余曲折の川を下り、見た目こそ丸くなったかもしれない石はそれでもダイヤモンドのような硬さを核にして、鋭く僕らの心に突き刺さる。
あの日見た夢を蛍に例えた10曲目。それに手が届かないとわかっても、僕らは手を伸ばす。その届きそうで届かない光や目標こそが僕らを生かし、光は未来永劫までを照らしてくれる。命の仕掛けはわずかで全部だ。夢を追う理由には十分過ぎる。
ボロボロになりながらも、立ち上がり、必死に夢を追いかけていく歌詞とそこから連想される姿は所謂バンプ初期ファンが追い求めてきた一種のがむしゃらさに似ているのかもしれない。色んな曲ができるようになったバンプ。まだまだこんな曲もできる。

今もどこかを飛ぶ あの憧れと
同じ色に 傷は輝く


このフレーズを支えるのは3曲目rayの「大丈夫 あの痛みは忘れたって消えやしない」だろう。アルバムは特にコンセプトを決めずに制作され、収録された曲の集まりであったと雑誌か何かで読んだ気がしたが、この繋がりは偶然だろうか。いや、きっと藤原のブレない気持ちと輝く意志が可能にした必然だろう。

11.white note
今回のアルバムは足枷が外れ、とにかく自由で楽しいというのが、ひとつの大きな印象ではあるが、これはその最たる例であろう。アコギの演奏から藤原のルーツが露骨に現れたようなハンドクラップ、大合唱のゴスペル風のアレンジに繋がっていく。ライブでの楽しい掛け合いが想像できる。
コーラスはまたも言葉にならない「オーイエイ」。歌詞がまとまらない時の素直な気持ちを歌っているのだからそれがもう本当にしっくりくる。

色々書いたノート 自分でも意味不明 良いとか悪いとかの前に まず意味不明
-ラララ 思いだけはあるのに -ラララ これ以外 僕にない

ロストマンでは作詞に9ヶ月を費やしたあの藤原から出てきた言葉とは思えないほど、素直な気持ちが全編で展開される。これも今のバンプだからこそなせる業だろう。

12.友達の唄
ストリングス系楽器とバンドサウンドが絡みあうバラードはもはやひとつの定形として、この国に根付いているが、これはその理想形のシングルだと僕は思う。ヴァイオリンもチェロもトランペットも、四人の音も、もちろん藤原の声もキレイで純粋に響いている。



人生には一期一会という言葉がある。そうじゃなくても、もう長い間会っていない友人や知合いは誰にでもいるだろう。そのひとりひとりが今も心の何処かで笑いかけてくれるから、今日も生きていられる。「そんなの当たり前だろ」と思うかもしれないけど、アルバムの流れで聞くとまた強く、優しい説得力として、僕を包み込んでくれる。
6曲目morning glowで歌われた「どれだけ離れても初めましてとは別れられない」の意味を改めて理解できる大事な12曲目だ。

僕はもう連絡も取っていない昔の友人を思い出した。やっぱり今更、連絡するような勇気はない臆病者だけど僕という人間を形成するには必要不可欠だった友人と思う。
そう、この物語の僕は結局、友人に会いに行かないのだ。そこらへんに僕はバンプが持つ本来の弱さを確認することが出来るのだが、その気持ちが痛いほどわかってしまうし、妙に納得できてしまう。
物理的にそばにいる事自体が必ずしも愛や友情の理想形とは限らない。今という時間を受け入れ、そんな友人達1人1人の無事と幸せを願うのも、ひとつの愛や友情の形であることをこの曲は肯定し、僕と友人達の今を肯定してくれる。アルバムで一番好きな曲だ。

13.(please)forgive
大草原の上の空をゆっくりと進んでいく飛行船をイメージさせるようなイントロ。COSMONAUT期には既に制作されていたというこの曲、メッセージ性も含め、しっかりとアルバムに馴染んでいる。友達の唄で歌われた会えなくなってしまった人達に最大限の愛をこめて、どうか許されるなら、その無事を祈る謙虚な13曲目。これがあるから友達の唄に潜む残酷性は親和性に変化する。

ただ怖いだけなんだ 不自由じゃなくなるのが
守られていた事を 思い知らされるのが
-まだ憧れちゃうんだ 自由と戦う日々を
性懲りもなく何度も 描いてしまうんだ


自由とは不自由であると歌ったのは誰だったか。「何をやってもいい」といわれると僕らは何をするべきか、わからなくなってしまう。あなたに守られていたことを認め、自由の中で、何を選択するかは既に虹を待つ人で歌われている。願わくば、あなたが選んだ行き先が僕の選んだ行き先と同じなら、いつか会えるかもしれないその日まで祈り続けようと藤原は歌う。そんな友人がいたら、僕は許す。そして図々しいかもしれないが僕も許されたい。

14.グッドラック
僕という場所を離れ、選んだ行き先へ向かうあなた。そのたった一人に精一杯の声援を送るアルバムのラストを飾るにふさわしいシングル。これまでアルバムで歌われてきたひとつ、ひとつの言葉が全て、繋がり、迷いなく歩み続けていくための勇気に変わる。
君と寂しさは共存する生き物で、僕は君がいたから僕という存在を確認できた。君もそうに違いない。今回のアルバムを聞いて「僕という人間はひとりでは生きていないんだな」なんて当たり前のことを改めて強く思った。それはrayで藤原が歌った恐らくありきたりだけど伝えたかった大事なことのひとつであり、今作の大きなテーマであろう。ひとりじゃ何も出来ない弱虫のくせに、どこまでも強く、光の柱が輝き続けている。

君の生きる明日が好き その時隣にいなくても
言ったでしょう 言えるんだよ いつもひとりじゃなかった


すべてはこの一言を言うための長い旅だったように思う。実に74分。そして言えるようになったBUMP OF CHICKEN。バンプがそう言ってくれるなら、僕もバンプに最大限のグッドラックをずっと贈ろうと思う。
何故ならバンプは僕の最高の友達の1人だから。

・総評
名盤。現時点では最高傑作か。とは言え、過去のバンプがあるから今のバンプがあり、そこから離れても、ひとつひとつの作品が意味を持ち、輝き続けているという事実は忘れても、消えないだろう。収録時間が長いのは惜しいが、1曲足りとも削ることは出来ず、通して聞くと何故か74分を受け入れることが出来る程、非常に作りこまれた作品である。

大きな会場でのライブや初音ミクとのコラボが示すように、今のバンプはオープンな状態だ。故にそこから発信されるメッセージはありきたりなものに聞こえるかもしれないが、その裏付けは驚くほど精密で手が込んでいて、説得力があるからおもしろい。
再三申し上げるが、サザンクロスから続く約束と変化の三部作で見られる表現、これは新鮮な物であると僕は思う。時間軸を行き来するタイムマシンのような表現、生きてきた時間が長ければ長いほど、それは強く響く。このようなレベルの高い新しい表現を次世代を担う新人が打ち立てるのではなく、キャリアのあるバンドが打ち立てられた事は喜ばしい事実だ。こんなにも日本語が真っ直ぐに届くバンドを僕はバンプの他に知らない。

歌詞だけではない。音も最高だ。バンドサウンドの復権は言うまでもないが、藤原のルーツになっている音楽要素をより多くのオーディエンスに伝える為に用意された幅広いアレンジや音楽性にも目を見張るものがある。その点では7枚のアルバムを発表しながら、まだまだ無限の可能性を持った才能であると僕は感じる。これからのバンプはもっともっと面白いことになると思う。その覚悟もRAYは教えてくれた。
やっぱり僕はバンプが好きだ。

以上がRAYを聴いて、僕が言いたい全てのことだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
というわけでまた次回!

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