数日前に飛び込んできたこのニュース、あなたはご存知だろうか?
http://natalie.mu/music/news/109743
不明瞭なことも多いが、バンド側がレコード会社との契約内容をしっかり把握できていなかった点はまず大きな過失であると考えられる。ミュージシャンは年にリリースされる契約数、活動に必要な資金や支出、残るお金をおおまかにでも考えておく必要が有る。一般的な会社で働く人間でも同じだ。自分がどんな雇用形態で働くかを確認し、それを雇い主と合意する仕組みを介さない働き方はまずい。とは言え、入社してから「求人票に書いてあることと違うじゃん」ってことはよくあって、僕も経験しているが。
つまりこれはバンドマンとレコード会社云々の話ではなく、雇用する側とされる側の不一致から生じた事案である。
次に問題視されるのはベスト盤リリースのタイミングだ。感情論を無視し、ビジネスという観点から考えた時に今回のリリースはまったくビジネスセンスの欠片もないやり方であり、仮にバンド側が了承していても、オリアル二枚でベストを切ることがどれくらい無意味なことかすぐに理解できるだろう。ベストを聞いて網羅できる代表曲はたった二枚のアルバムに収められており、なおかつベストを聞いてもそのたった二枚のアルバムに収められた隠れた名曲を知ることが出来ないのだ。ならオリアル二枚を聞いたほうが早いに決まっている。
一応、インディで二枚のアルバムは出てるけどそれくらい熱心なファンなら集めるだろう、ベストの力を借りるタイミングではない。
その上バンド側の本意に背くとあらば、これほど無駄な商品はないと思う。誰も特をしないし、売れないことはもう明白だ。せっかく波に乗ってきてる金になるバンドなのに非常にもったいない売り方だなと思う。本当に稼ぎたいならでかいタイアップでも取ってシングルを切ればよかったのに。
要約するとこの二点だけの話である今回の件は。それ以上でも以下でもない。原盤権がどうこうとか、不本意でリリースされても印税は入るんだからその収入で無料ライブやれよとか色々言われてるけどそんな面倒な話でもないかなと。なんでここまで言うかってクリープハイプは本当にいいバンドだからだ。まだベストを必要とする、されるバンドではない。特に1stアルバム、あれは最高だった。
僕はそもそもベストというものがあまり好きではない。いいとこ取りみたいな都合のいい匂いは気持悪いし、1曲1曲がアルバムの中で孤立し、アルバムを通して聞くことで完成されるストーリーがベストには皆無だからだ。
例えばあなたの幼い頃から今までの色んな写真が収められたフォトアルバムがあるとしよう。これをベストフォトアルバムとして発表する時にその中にはどんな写真が収められるだろう?言うまでもなく収められるのは選りすぐりのベストショットだけだ。それを見た人はこう言う「楽しい人生なんだね」と。
ふざけてるとしか思えない。
僕という人間、あなたという人間が生きてきた人生のいいところだけを見せて、それだけでひとりの人間が評価されるなんておかしな話だ。もっと知ってほしい。楽しいことばかりじゃなかった、悲しいこと悔しいこと恥ずかしかったこと・・・でもそんな写真はベストには収録されない。
CDアルバムでも同じことが言えるし、オリアルはバンドが持つ影を知る手がかりになると僕は考えている。その歌手のベストな所だけ見て、なにがわかるだろう。誰かを理解するときにはその人が持ってるいいところも悪いところも全部見なきゃだめだ。
だから僕は滅多にベスト盤は聞かない。
とは言えベスト盤はやはり便利なものである。ベスト盤を聴いて、そこで思考がストップしなければの話だが。その歌手のすべてを知ることはできなくても指針になるだろう。ベスト盤なんてその意味しかない。
その昔スピッツも同じようなことをやっていた。このベストに断固として反対したバンド像はロックンローラーとして人間としてひとつの憧れであり、その後考えを整理して自分たちの意志で改めてベスト盤を発表するまでの生き方には感動さえ覚える。が、スピッツが苦しんだ事実は一生消えないだろう。
どうして歴史は繰り返されるのか?
もうここらで本当に頭の悪い売り方はやめにしてほしい。売りたい気持ちはわかる。音楽はビジネスだ。だけどそれだけじゃない。最期は気持ちが勝つ、必ず最期に愛は勝つのだ。
今は音楽を売るという意味では本当に複雑な時代だから、バンドとレコード会社及びスタッフの信頼関係というものは昔よりもっと大事になってきていると感じる。
ならどうするか?
本当に成功したい、売れたいならバンド側の気持ち、方向性を最優先したプロモーションを行い、作品を発表するのが一番の近道ではないだろうか?なおかつファンを傷つけないやり方で。
言いたいことはだいたいこのくらい。
だから、どうか気になったミュージシャンがいたら、ベスト盤は手にとってもいいけどそこで止まらずに、命と時間を費やして作った愛に溢れたオリジナルアルバムを聞いてほしい。その作品がリリースされた時にバンドがどんな喜びと悲しみを抱えていたかわかるのはおもしろいから。ベストで大事な所だけサーっと聞いたらそれは曖昧になってしまう。そしてライブへ行ってどんどんお金を自分の楽しいことに使って、音楽を愛してほしい。