Dragon Ash/THE FACES-ミクスチャーロックという生き方を選び、体現するバンド | MUSIC TREE

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邦ロックを中心に批評していく
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まず言っておくと最高のロックアルバムである。

色んな意味で最高傑作と言っても過言ではない。
長いことバンドやってきて、また何度目かの全盛期が来てることを確信させる仕上がりだ。「ベースの人死んだんだっけ?昔のおじさんたちのバンドでしょ?」とか「最近ヘンテコなラテンしてるじゃん?昔みたいなうっさい音でラップしないの?」とかつべこべ言ってないで聞けばわかる。

かっこいいし、熱いし、泣けるし、何より若い。アーティスト写真ではヒゲをバッサリ剃ったkjが印象的だが、それはまるで社会人一年目みたいな溢れんばかりのフレッシュさを感じる。相変わらず最近の若いバンドに全然負けてないし、同じ方法論を用いた所で彼らが築いてきた頂きには敵わないだろう。
捨て曲は一切ないし全部シングルで切れそうな勢いである。おそらくDA好きの100人中100人、ロックが好きな人の大方はイントロ後の二曲目が始まった瞬間に泣いて飛び跳ねる。

こんなアルバムをずっと待っていた。


しかしここにたどり着くまでの過程は言うまでもなく順風満帆なものではなかった。
HARVEST期に見え隠れしたマンネリや迷いという課題をラテンのリズムで見事に乗り切った彼ら。そこから数々の名曲が生まれ、それらは特にライブで演奏されると圧倒的な熱さがあった。



ラテンの情熱的なリズムとバンド本来の熱源とオーディエンスの熱気が絶妙にシンクロし、ドラゴンアッシュというバンドをさらに強靭なロックバンドにした。
そしてついに前作MIXTUREで改めて彼らはミクスチャーロックと向き合った。
「ここからやっとドラゴンアッシュが真のロックバンドして再び歩き出す!」と誰もがそう確信した。

しかし予定された未来の秒針は予想外の出来事により止まってしまう。

IKÜZÖNE の死である。

バンドにとって仲間であり、頼れる兄貴のような存在だった1人の男を失ったのはあまりに大きかった。僕達ファンにとっても、彼のいないドラゴンアッシュというのはなんとも想像しがたいものだった。
僕が彼の最後の姿を見ることが出来たのはCDJ2011。いつも通り敬愛するhide の人形をアンプヘッドにぶらさげ、ライトセイバーを振り回しながら黙々とプレイするあの独特のスタイルは健在であり、いつまでもそんな日が続くと錯覚した。どうして僕らはそこにある何かが永遠に存在し続ける、それが当たり前だと錯覚してしまうのだろう?今いる場所も、生きてる人もかけがえのないもだとわかってるはずなのに。

とまぁ落ち込んでいても仕方なかった。kjも彼の亡き後一度はバンドを続けるべきか迷ったと聞いたが決意を新たにすぐに帰ってきてくれた。立ち直るだけでも時間がかかるはずなのに、ほんとうに強いバンドだなと思った。何より嬉しかったのはメンバーの死という要素を必要以上に売りにしなかった点だった。ドラゴンアッシュはお涙頂戴のバンドじゃない。死は事実としてそこに存在しているだけで、バンドもまた存在し続けることを選んだのだ。

それからのドラゴンアッシュの勢いはすごかった。主にレコーディングではkj自ら、ライブではサポートとしてRIZEのKENKENがベースを担当。今しかない、今やらなきゃ、ずっと続けなきゃ、このままじゃ馬場さんにあの世で顔向けできねぇ!という気迫が恐ろしいほどに伝わってきた。

kj「続けたくても続けられない人をたくさん見てきた」
「金払ってライブに来てもらってるのに、こっちから『疲れた』とか『やり切った』とかの理由でステージを降りることは俺にとってあり得ない」
「必要じゃなくなったら、誰もCD買わなくなるし、勝手にライブに来なくなると思う。その時は『やり切った』と思えるかな」


僕なんかの想像や推測じゃ追いつけないくらいkjは、そしてドラゴンアッシュは並大抵ではない覚悟をしてバンドを続けているのだ。


それではここで届けられた今作の曲を改めて聞いてみよう。


まずお決まりのintroから始まる。交響曲のように高らかに鳴り響く音楽の後に重いベースが鳴り響く。

新しい幕開けが告げられた。

2曲目、もう鳴り始めた瞬間に僕はガッツポーズをした。ここにきてFantasistaや百合~と肩を並べられるくらいの名曲、キラーチューンを生み出してくれることに驚き、涙が流れた。The Show Must Go On・・そうだ、バンドはどこまでも続いていくのだ。
3曲目、これぞミクスチャーロック!なキラーチューン・・・こういうのずっと待ってた!と言わんばかりの音が僕の体中を駆け巡る。最初はパンクバンドだったし、ヒップホップもやったしラテンとかエレクトロニカとか(僕が知るかぎりの雑多なジャンル分け)色々やったけどミクスチャーロックをシンプルにやったらドラゴンアッシュはやっぱりすごい・・・もう最高だ。
4曲目、シングルにもなったシンプルで気持ちのよい曲、どこまでも走り続ける意思とその意味が爽やかに強く駆け抜ける。
5,6曲目、ここでリラックスした雰囲気に持っていくのかと思われたがあくまで上げていく。いつか見た憧れに届かずとも、自分が主人公になり楽しみながら戦っていくことに永遠の願いを込めたNeverland。逆に今日1日の大切さを強く訴え、明日への希望を歌ったTODAY'S THE DAY。まるで2曲がつながっているかのように僕には聞こえた。2曲ともこれまで培ってきたラテンのフレーバーが前に出過ぎずわずかに感じられ、それにより暖かな光を放つ名曲になっている。太陽の下で歌われる僕らのアンセムが鳴り止まない。やはりあのラテン期は不要な寄り道ではなく、必要だったのだ。

続く7曲目HERE I AMも最近のドラゴンアッシュが得意とするRUN TO THE SUN系のシンプルなビートのまま突っ走るタイプの曲。新体制になって初のシングル、彼らの存在証明そのものを鳴らしたような言葉と音で埋め尽くされた熱い仕上がりに心が震える。
8,9曲目、またしても意識しているかのようなアップテンポとぶっ飛んでるバンドサウンド。ここでもラテン譲りの美しいグルーブが熱く鳴り響く。本当にどこまで僕の胸を熱くすれば気が済むのか。
10,11曲目、やっとクールダウンのメロウな楽曲に辿り着く。とは言えどちらも泣きの美メロと優しい歌詞が炸裂。このバンドは本当に強くてかっこよくてそして優しい。

12曲目、ここにきてさらにキラーチュンーを送り込んできた。ベケベケゴリゴリのベースに乗る高速ラップ、歌われるのはライブが持つ熱さと自分たちがそれをロックバンドとして証明してきたこと。終盤の「この音が止まるはずない いなくなったあなたのためにも」の歌詞とそれを支える全速力の演奏はこのアルバムのピークと言っても過言ではない。
13曲目、バンドを象徴する百合の花をタイトルにしたこの曲は今の彼らが届けるべきメッセージ、音が最大限に発揮された名曲だと思う。最近の他のシングルもそうだけど、シンプルな構成の中でなんとなく僕は初期に似た匂いを感じる。それは別の世界でドラゴンアッシュを見守り続けているであろう彼へ向けたかのような懐かしさである。再出発かもしれないけど3人でバンドを始めたあの時のような感覚を今彼らは胸に抱えているのではないだろうか。
ラストCURTAIN CALLによりアルバムは終わる。
失ったものすべてに別れを告げ、いつかまた逢えることを願いながら。


曲順や聴きやすさを含めてもこれ以上何を願えばいいだろうかと想える程の出来だ。このアルバムをひっさげて初の武道館公演を行う彼ら、残念ながらその勇姿をこの目で確かめることはできないが歴史的なライブになることは間違いないだろう。ライブハウス武道館で鳴らされる「目の前のあなた」と「いなくなったあなた」の為のミクスチャーロック。今作の真価は改めてその日に問われる。


長くなってしまったが最後に今作の特に心に響いた歌詞を取り上げてみよう。

「人はそう beautiful fool 夢ばっか追って could be confused
それでいい should be so cool 夢ばっか見ろって music for you (TODAY'S THE DAY)」

「消せないくらい深く残る傷 それさえ歌い繋ぐ事出来る
here I am 昨日焼き尽くすくらい here I am 希望焚き進むlife
響け決意表明のverse 起死回生手延ばす明日 (HERE I AM)」

「誰もが泣きじゃくり生まれ落ちたのなら
失望 堕落 挫折 それ自体 当たり前だろう
消えない全てが色を足し the life shines with gold (GOLDEN LIFE)」

「経験値がモノを言う 故にロマンと努力は嘘をつかず
この音を止めてはいけない 目の前のあなたのために
- 変化してくシーン変化してく style 変化していく絶えず
変わらない物は鮮明で 目の前の live こそが生命線
目撃しろこの風景 体感しな地鳴りと重低音
脳に直接 impact PC じゃ落とせない実感
-この音がとまるはずない いなくなったあなたのためにも (THE LIVE)」

「間違いを犯し 許された昨日を
誰かを許す今日に変えていけるよ 咲き誇れ
そう 君がくれた今日を 次は僕が君の為の明日へ (LILY)」



今作の言葉と音はどうしてこんなにも力強い前向きさを持ち、説得力があるのか?

それはドラゴンアッシュというバンドが自ら経験した様々な挫折とそれを乗り越えるだけの努力、勇気を体現してきたロックバンドだからだ。

ミクスチャーロックとはなんだろうか?ただの音楽のジャンルだろうか?
違う。
過去と未来に存在しうる全ての希望と絶望、自らの胸を揺さぶる様々な感情を全部ミックスした時に生まれる化学反応、ドラゴンアッシュの生き方そのものを表す言葉のように僕には想える。
失った故に得て、その時時で必要なものを取り入れて、変化し続け、走り続け、それをいつだって力強いロックとして鳴らすことで彼らは生きている。命を持って音楽が生きているのだ。
だからこそ僕は彼らをロックバンドとして、人間として信用できるし、いつまでも憧れつづけていられる。そしてそんな彼らに少しでも近づけるように明日も生きていこうと想えるのだ。

最高のアルバムをありがとう。