大失敗!260万で自費出版して売れなかった小説無料公開! | タケヒト、統合失調症を乗り越えて働く男の日記

タケヒト、統合失調症を乗り越えて働く男の日記

29年前に発症した統合失調症をほぼ克服し元気に障害者として働くある男の毎日を綴った日記です。

読んでくれてありがとうございます飛び出すハート

 

元気な障害者のタケヒトですニヤリ

 

障害の話も時々交えながら、元気な日々の毎日を豊かにする、

 

多種多彩な話を紹介していきます!!

 

しばしの間お付き合いください照れ

 
 
 
 
こんにちは。
 
小説紹介今回は第1章 5話です。
 
以下本文
 
 
 

                 5

 「どうして俺はいつもこうなるんだ?・・・

死にかけのジジイに会って何になる・・」

 喫茶店からの帰り道思わず愚痴をこぼした。

しかしああ言うしかなかったと言い聞かせた。

 

多枝子は魅力的な女性だが交際するには歳が違い過ぎる。

それにフリーターにあんないい子がオトせるわけがない。

我に返るとそんなうまい話はあるわけはない、あるとするなら

相当の苦労を伴うものだろう。

どんな苦労が待っているのだろう。

どんどんネガティブになっていく自分がいた。

しかしある意味冷静になってきたといえよう。

ここまで夢のような展開で博樹自身がついていけてなかった。

コンパスも持たず大海原でボートを漕いでいる気分だ。

 

ポケットから多枝子の名刺を取り出し見つめてまたポケットに戻した。

この出会いは流れに任せるしかない。

そんな気がした。

 

 

 

帰路の途中駅前商店街に花屋がある。

ふと目を向けると彼岸花がバケツに入れられて店先に置いてあった。

博樹はその前にしゃがみ込み小さな声で呟いた。

 

 「なあ・・・お前に会ってからおかしなことばっかりだよ。教えてくれよ」

 

 

 博樹のアパート。キッチンのシンクにはまだ十数本の彼岸花が生きている。

家に帰ると昼夜構わず、まずビールを出してプルタブを開ける。

プシュ。

一口飲んでからでないと次の行動に移ろうとしない。

博樹は軽いアルコール依存症なのかもしれない。

そう思うことも時々あったが、まあいいやと放置されていた。

人間どん底まで追い込まれないと自分を振り返らない。

 

ダイニングのテーブルに座った博樹はようやく落ち着いて考えを巡らせた。

これからの事をどうしていくのか考えたが彼女とのことはどうにも

考えようがなかった。

女は押しの一手というがこちらから一方的に押しかけても迷惑がられる

だけではないかと思うからだ。

その辺は、博樹はまだ冷静だった。

何一つ今後のことに目途は付けられなかったが、

ハッキリしていることは一つだけある。

 

 「とりあえず働かなくちゃ。」

 

 正解である。携帯を手に取り派遣会社に連絡を入れた。

 「あっ、御神です。とにかく金になるバイトないですか?何でもやります。         

 素直にそんな言葉が口をついた。

 

 

 

 

愛知県東海市、県の行う都市開発計画によりここ近年どんどん

様変わりしていく。

もともとは名古屋へのアクセスがいいのでベッドタウンとして

開発していた土地だが、住居者が増えたことと学校誘致計画が

あることなどから駅前の商業開発を始めた。

大きなビルディングを何棟も建設しなければならない。

博樹はその現場にいた。

 

ビル建設といってもピンからキリまである。

素人のバイトにやらせる仕事は下請けの下請け、

雑用がメインの仕事だ。

 

「ほらバイト!夕方までにこの砂利全部運び出すんだぞ。

このままじゃ間に合わないぞ!」

 

 「はい!すいません!」

 

 ごく簡単な仕事だが何かにつけ力仕事だ。半日もやっていると足腰はガタガタだ。

 

 「まあいいよ。もう昼だ。飯!」

 

 助かった、少し休める。天気がいいのでみんなが集まる

プレハブではなく外で昼食をとることにした。

昼食はコンビニで買った海苔弁当。

380円だ。

お茶は家で入れた麦茶を水筒に入れて持参している。

弁当を食べ終え雲を眺めながら煙草をふかしている時に携帯が鳴った。

「沙羅多枝子」彼女の方から連絡をくれた。

少し慌てて周りを見回し誰もいないのを確認してから電話に出た。

別に誰に聞かれても困るわけでもないのだが。

 

 「はい」

 

 「沙羅ですが・・・」

 

 「えっ、あっ・・・はいはい」

 

 嬉しさの余り少し戸惑った。

 

 「あれ以来連絡いただけないのでどうしたのかと思いまして・・・」

 

 意外な多枝子の言葉に博樹は少し図に乗った

心の声

 【おっ!会いたくて、会いたくて仕方がないのか?よ~~~し。キタキタ!】

 

 多枝子はさらに話を続けた

 

「お父さんが会いたくて、会いたくて仕方がないって聞かないのですよ」

 

 博樹は固まった

 

 「お父さん????」

 

 「ええ。お時間いただけませんか?」

 

話は呑み込めないが彼女に会えることは確かだ。

そう思ったら反射的に返答していた。

 

「あ、はい。今週の土曜日でしたらなんとか」

 

 「じゃあ今週の土曜日、午前中にお願いします」

 

 「分かりました」

 

 そこで電話は切れた。思わず本音が口に出た・

 

「なんかおかしなことになりやがったな。まあいいか。とりあえず仕事・・・」

 

 頭を整理するかのように雲を見上げた。

 

 

 

洗面台の前で電気カミソリにて髭を剃り直す博樹。

今日は約束の土曜日だ。

グレーのスーツに紫色のネクタイまるで面接にでも行くかのような格好だ。

お父さんに挨拶に行くのだから正装じゃないと失礼だと感じていた。

しかしこれといった挨拶をするわけではない。

この展開に戸惑っていたが失礼のない方の選択をした。

 

彼女とのことは成り行き次第。

そう決めていたのでこの成り行きに正面から向き合うことにした。

好きな時間に病室に来てくれとのことだったが博樹の方から

時間を11時と指定した。

到着したのは時間15分前だ。

律儀に病室の前で待っている所を病室から出てきた多枝子に見つかった

「お待ちしていました。あら、その格好」

 

 「いや・・お父さんに挨拶するのに普段着じゃあ・・・」

 

 失敗だったかなと博樹は少し照れた。

 

 「ご挨拶⁉クスクス。ご挨拶してくださいな!さあどうぞ」

 

 何処となくからかわれている様な気がしたが、

別に嫌味ではなく彼女のリアクションは自然に受け入れられた。

少し立ち止まりネクタイを締め直して背筋を伸ばし部屋に入った。

 

お父さんは起き上がりニコニコ笑顔で出迎えてくれた。

 

「君が御神君かぁ・・・話には聞いていたよ。働きものだってなあ」

 

 「はい、昔は・・・いえ、仕事は好きですよ」

 

 お父さんの真っ直ぐこちらを見る目線は嘘を見抜かれている

様な気がして少し痛かったが後には戻れなかった。 

 

 「仕事の好きな奴に悪い奴はいないよ。さあ、座りなさい」

 

 ベッドの脇に折りたたみ椅子が用意されていた。近くに寄るのは余計緊張するのだが断るわけにもいかず座ることにした。 

 

「失礼します」

 

 「それにしてもその格好・・・営業の仕事でしたか?」

 

 「いや、これはその・・・」

 

 返答に困っていたら話に割って入るように多枝子が動いた。

 

「お父さん、お花の水替えてきますね。今日は凄く体調が良さそう」

 

 花瓶を持って部屋を出た。多枝子抜きでは初対面の他人同士だ。

急に空気が重くなってしばし沈黙した。秀夫の方から話を切り出した。 

 

 「君は、娘の事が好きなのか?」

 

 「いえ・・・好きと言うか・・・嫌いではないのですが・・・

好きなのかどうか・・・」

 

 父親を前にして好きと言うほど博樹の意志は固まっていなかった。しかし好きじゃないというのも失礼ではないかとも思い曖昧な答えになった。それに気付いていたのかいないのか秀夫は続けた。

 

 「・・・曖昧な気持ちで生きているほど無駄な事は無いよ。

いつも自分の気持ちに自信を持ちなさい。一途な思いは必ず報われる」

 

 秀夫は遠くを見るような目でゆっくりと語った。

説教のような台詞だが決して説教臭くなく妙に説得力があった。

しかし正論だけに博樹は悔しかった。

今ある自分を否定されたかのように聞こえたからだ。

つい本音がポロリと出てしまった。

 

 「・・・しかし・・・上手くいかないことだってあるじゃないですか。

・・・苦労して苦労してやっと幸せをつかんだと思ったら、裏切られて

・・・あなたは運がよかったのですよ。

俺だってもう少し運があれば・・・あ、すいません」

 

 過去の悔しい経験を吐き出してしまった。

博樹の目には秀夫は人生の成功者に見えて妬ましかった。

実際見えるだけではなく秀夫は 事業では華々しい成功を収めていた。

しかし・・・

 「・・・運ですか・・・こんな病院で寝ている男の運がいいと?」

 

 嫌味っぽくない。爽やかににっこりと微笑んだ。

 

 「いや・・・」

 

 言葉に詰まっているうちに秀夫は続けた。

 「娘は君が気に入っているようだよ。不器用だけど一生懸命な人だって。

しっかり者だからこの位年の差があった方がいいのかもしれないね。

娘に好かれる事は運が悪い事なのかな?」

 

 相手の好意を知って急に自分が恥ずかしくなった。

がっかりさせる前に全てを話そう。

そんな気になった。

 

「いえ・・・実は・・・私は・・・」

 

 こちらの話より先に秀夫は続けた。

「あの子は頭のいい子だ。心配はいらないよ。今の君に何が必要か考えてごらん。」

 

 秀夫も多枝子も多くの事を博樹に聞かない。

しかし興味がないわけではない。

心に引っかかることをきちんと言ってくれる。

しかもあかの他人にも優しい。

良い意味で親子そろって訳が分からん、そう思った。

するともう一人の訳が分からん人が帰ってきた。

 

 

 ガラッ

 

 「お父さん、御神さんはどうですか?」

 

 「思った通りの人だね」

 

 心の声

 【思った通り??どういう事だ?俺のことどう思っているのだ?】

 

 二人だけがわかる会話の展開に博樹は不安になった。しかし何故かこの二人なら悪くはならないだろうという不思議な安心感はあった。

二人の落ち着いた佇まいがそうさせているのだろう。

 

 「お父さん、無理はいけないからもう寝てください」

 

 「そうだな」

 

 「御神さんもうお昼だからランチでもいかがですか?」

 

 博樹には断る理由がなかった。

 

 「え・・ああ・・はい」

 

 相変わらず多枝子のペースには慣れない。

それほど無茶ではないのだがポンポンと話が進む。

ほんとの気持ちがわからないまま距離だけが縮んでいく感じだ。

今は秀夫の言った、気に入ってくれているという言葉だけが頼りだった。

 

 

 「じゃあ、お父さんまた来るわね。」

 

 「・・・お父さん・・・また来てもいいですか?」

 

 何故か博樹の口からもそんな台詞が出た。

 

 「楽しみにしているよ」

 

 とりあえずは気に入られたようだ。

多枝子と二人で病室を出た。

大きな病院には食堂がつきものだが、

この病院も地下一階が売店と食堂だ。

エレベーターを降りると二人は窓際の席に腰を下ろした。

食堂とはいっても雰囲気から言えば喫茶店。

メニューでいえば洋食屋さんといった感じである。

 

病院玄関から直接入る階段があり来院者以外も来られるようになっているが、

お客はほとんどが来院者である。

多枝子の勧めでエビピラフを二つ頼んだ。

グラスの水を口に含むと多枝子の方から話を切り出した。

 

 「お父さんがどれだけ楽しみにしていたか分かりますか?」

 

 「いえ・・・分かりませんが」

 

 当然分かるわけはない。そのまま答えた。

 

 「あんなに元気のいいお父さんは久しぶり」

 

 「そうなの?」

 

 確かに依然盗み聞ぎしていた様子とは全然違ってハキハキとしていた。

緊張で気にも留めなかったが咳込む様子はなかった。

 

 「いつもは苦しそう・・・でもお父さんは言うの・・・

簡単に死ねない事も必然だって。何かがあるから人は命を

いただいているって。私にはわからないですけどね」

 

首をすくめてにっこりとおどけて見せた。 

 

「・・・簡単に・・・死ねない事も・・・」

 

 博樹は自分のことに照らし合わせて考え込んだ。

 

「此処のピラフ美味しいでしょう」

 

 返事もままならず思いの丈が口をついた。

 

 「・・・僕があなたに会えたのは・・多分必然です!・・・あ・・・いや・・・その」

 

 口に出してから恥ずかしくなって下を向いたが意外な答えが返ってきた。

 

 「私もそう思いますよ。うん、おいしい。」

 

 いつもそうである。自分の不器用さに嫌になる度多枝子は助けてくれる。

普通に考えれば18歳も年の離れたおじさんである。

お金があると思われているのだろうか・・・

多枝子が優しければ優しいほど不安になる。

しかし今はこの幸せに浸っていたい。

大事な話を避けながらひと時のランチを楽しんだ。

 
 
 
 
 
一気に読みたい方はこちらをどうぞ

 

赤い毒に揺られて [ 神野 岳仁 ]

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こちらもよろしく!!過去のおすすめ記事
 

 

注意

 

 

 

注意

 

 

 
 

                                                       注意

 

 

 

                                                       注意

 

 

 

 

                                                     注意

 

 

 
 
                   注意