これすなわちトリプルスリーという。 | あずき年代記

あずき年代記

ブログの恥はかき捨てかな…

「吾輩は猫である」の理学者・水島寒月くんは椎茸を食べていて、上の前歯の一本が折れてしまう。


一本そっくり折れたのではない。

幹を中途から断ち切ったように根っこからすこし先までは残存している。


苦沙味センセイの家でお茶が出る。

茶受けは、空也餅。

寒月くん、その餅が噛み切れず、残存した歯の先端に引っかかってぷらぷらしている。


迷亭センセイはそれを見て、

「俳句になる」

などと浮かれている。


当方の上部・左側の前歯も、歯ブラシを当てると上下左右に揺れてきている。


食物が触れると痛い。

この歯の老先もまた短い。


身体のパーツ・パーツが経年劣化して次次とオシャカとなり、早晩、トータルでの成仏を迎える。


忖度なき粛粛とした現実に畏れいる。

跪く。

合掌する。


こうなると名状しがたい宗教的心情に誘いこまれ、都知事選などシャットアウトしたい心境に駆られてくる。


そうはいかないのであるけれども…。


ところで、空也餅(くうやもち)はいまでもあるのを最近知った。


餅でなく最中だったから歯に優しく、皮も餡子も美味だった。


若いころから甘味は和菓子を好む。


今日みたいな暑い日は水羊羹が弱体化したお歯に合う。


谷崎潤一郎は「陰翳礼讃」で羊羹の肌における陰翳も礼賛していたが、騙されてはいけない。現実の谷崎は建築も食べ物も洋風好みだったのである。


歯も髪も間(ま)もみるみる抜けてゆく。


これをトリプルスリーという。

ハットトリックとはいわないだろう。