舟木一夫自叙伝⑬ お母さん!あれが夢のハワイだよ 第四章② | 武蔵野舟木組 2024

武蔵野舟木組 2024

               さすらい

 

雨のハワイで親孝行

 

僕は次々と新曲を吹き込んだ。そして、それは次々に日活や東映で映画化された。

『学園広場』『仲間たち』『あゝ青春の胸の血は』が日活で、『君たちがいて僕がいた』『夢のハワイで盆踊り』が東映と云ったふうで、『夢のハワイで盆踊り』の時はハワイロケに行った。

これは僕にとって最初の海外旅行であった。僕はこの機会に母を喜ばせようと思った。僕は一宮の実家に電話を掛けた。「おかあさん、ハワイに行ってみたくない」なにか急用でもできたのか、東京からの電話に出た母は、いきなり僕がハワイに行きたくないかと言ったので、鳩が豆鉄砲食らったような顔だったそうだ。(これはあとで弟から聞いたのだけど)

「そりゃあ行ってみたいけどどうして?」

「ハワイにロケに行くんですよ。だから一緒に連れて行ってあげたいと思って・・・」

「まぁステキだこと!」

母の少女みたいにはずんだ声が電話を伝って聞こえてきた。僕は母の喜ぶ声を聞いて満足だった。

 

 

ホノルルロケは一週間だった。

ワイキキの浜の波乗り、高いヤシの木の並木道、熱帯の花の咲き乱れた美しい庭、コバルトブルーの空と海、輝く太陽・・・

僕は空想のつばさを広げて楽しんだのに、ホノルル飛行場に着いた時から雨だったのだ。そして何と、雨にたたられて、撮影は予定が狂い、楽しみにしていた海では、なった15分泳いだだけだった。

「舟木は雨男だ・・・」

だれだか、そんな憎たらしい事を言い出し、それ以来、僕は雨男と言われるようになった。

しかし満足だった。母にはムームーを一つ買ってあげただけだったが、母は一人で久しぶりに家庭を離れ、のんびりとハワイの休日を楽しんだようだったし、それがせめてもの、僕の親孝行になったからだ。

 

 

僕は、今になってみると雨のハワイも良かったと思っている。「それにパイナップルが上手かったなぁ~」人にハワイの印象を聞かれたら、僕はそう答えるだろう。

ホノルルを出ると、丘陵地帯はえんえんたるパイナップル畑がある。そのパイナップル畑に降り注ぐ雨の音の、何んと詩情に満ちていた事か・・・

それからもう一つ、このハワイロケで共演したコロムビア・ローズさんと「梅干ゴシップ」を流された。このゴシップについては、詳しく後で書きたいと思う。