舟木一夫自叙伝⑦ 故郷にとどけ!高校三年生 第二章④ | 武蔵野舟木組 2024

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故郷にとどけ!高校三年生  新しい譜面

 

ある日、遠藤先生の家に行くと、一枚の新しい譜面を頂いた。歌曲の題は「高校三年生」と書いてあった。「これが君のデビュー曲だ、しっかりやるんだよ」

十畳の洋間のピアノの前であった。僕は泣けるほど嬉しくなった。「ありがとうございます」

思わず、いつもより大きくお辞儀をしたのだろう。頭をピアノのキーにぶつけた。高音部がコロンコロンと鳴った。

「テストまで一ケ月ある。それまでうんと絞るからな」遠藤先生の眼鏡がピカリと光った。

「やります。一生懸命やります」遠藤学校でレッスンを受けるようになってから十カ月目の幸運であった。僕はこのチャンスを逃したら、僕の人生がめちゃめちゃになりそうな気がした。一回でパスするんだ。その為には、もっと勉強するんだ。必死の思いで全身のたかぶりを抑えている僕であった。

 

 

僕は毎晩のように上智大学のそばの土手の上に行って歌った。葉桜の美しい季節であった。

夜空にはおぼろ月がかすんでいた。大都会の10時・・・。騒音はあまり聞こえず、土手の松並木は静かで、僕の歌声はよく響いた。

「高校三年生」ああ自分と同じ高校三年生の歌、僕は遠藤先生ばかりではなく、僕を取り巻く人たちに感謝したい気持ちでいっぱいであった。そして「山田先生有難う」夜空に向かって、名古屋まで届けとばかりに叫んだ。

 

そのうちデビュー曲の吹き込みが近づいてきた。さすがに胸がなりさわいで落ち着かない。そのくせ、やるぞ!という気持ちは炎と燃えていた。

いよいよその日が来た。前夜はさすがに眠れなかった。目をつぶると瞼いっぱいにマイクが映って来るのである。睡眠不足のまま私は迎えに来た堀社長の車に乗った。

 

 

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