久しぶりのフィギュア記事です。MISAさんの記事「中野友加里さんの類いまれな才能」に感化されて、私も音楽の表現者と心の表現者の視点から、フィギュアスケートを思い出したり、見たりしてみました。最近、ブログもさぼり気味で(野球のせい?)、懐かしき演技の羅列になってしまいました。


私は女子では伊藤みどりさんのファンから始まり、その後、陳路→クワン→中野友加里と応援してきたわけで、男子では、ストイコ→ヤグディン→不在→ライサチェックという推移で、年々応援する選手が変わってきました。よって、この記事も彼らに偏ってしまうことをお許しくださいませ。


ます、音楽表現ですばらしいと思ったプログラム&スケーター。たくさんいます。たくさんいますが、中でも96-97シーズン、クワンが滑った Dream of Desdemonaのプログラムから話を開始します。世界チャンピオンになって初めて迎えるシーズンに用意されたSP、振付けはローリー・ニコル。このプログラム、Dream of Desdemona(デズデモーナの夢)というタイトルがついていますが、そんな曲は存在しません。オペラ「オテロ」にインスピレーションを受けていそうですが、使用曲はマスネの組曲やら「エロディアード」という曲やら「赤いけし」やら、3曲で構成。


それなのに、曲のつなぎにまったく気付かないほど上手に編集され、「デズデモーナの夢」と釘うたれました。驚くのは、前年「サロメ」でブレイクした彼女が、またサロメと関連する「エロディアード」(←サロメの母)を題材にしたオペラを使用しているところ。実は第二のサロメなのかもしれません(妄想)。世界選手権でルッツを失敗し、リピンスキーに破れたプログラムとなってしまいましたが、名作だと思います。





序盤は緩やかな「赤いけし」のメロディーに合わせて得意のスパイラルをゆったりと。そして2Aの着氷と音楽とガッチリ噛み合っている。徐々に曲が盛り上がっていくところで美しい3T、さらに終盤に向けてのドラマティックなサーキュラーステップ。音楽とぴったりあった最後のポーズ。つなぎも振付けもふんだんに盛り込まれた、クワンのプログラムの中で音楽表現に秀でたものだと思います。同じ曲で何度も滑っていますが、この大会の演技が一番すばらしい。


★★★






次。同じくクワン。こちらは音楽表現というよりも心で滑っている感じを受けるプログラム。彼女の十八番、「エデンの東」です。特に音楽とぴたりと合っているのは、中盤のサーキュラーステップのバレエジャンプ。よくあそこまで曲の盛り上がりに合わせてバレエジャンプを跳ぶものだと思います。さらに、スパイラルで終了するという、難しいはずの珍しい構成を音楽と一体となって終わるのです。スパイラルが得意なだけあります。まるで、クワン自身がこの曲の指揮者のように、ラストのポーズを決めます。この演技から彼女のスケートが好きだという思いが伝わってきます。音楽をとらえ、さらに人の心をも引き付ける、すばらしい心からの演技です。


★★★



そして陳路の伝説のラフマニノフ。これは音楽表現では最高峰の演技でしょう。ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」はたくさんの選手が滑ってきたフィギュアスケートでもお馴染みの曲ですけれども、第2楽章だけを使用する選手はめったにいません(*1)。それだけ難しいのだと思います。これは、サンドラ・ベシックの振付け。





絡み合うピアノに合わせての3Loやキャメルスピン。スローパートで立ち止まる際の会場の雰囲気作り。美しいバックアウトのカーブから跳ぶダイナミックな2つめの3Lz、長い助走も曲の盛り上がりと共に着氷することで、音楽にピタリとはまっ?トいます。さらに後半の3Sや2Aの着氷も、見事に音楽と合致。2Aの着氷では、消えて行く音と共に脚を軽く引いているのです。そして最後、音のない間をとって、3T。静かに消える音楽にこうしたアクセントを加えて終了に至ります。クワンの「サロメ」に負けはしましたが、今でも語り継がれる伝説の名勝負プログラムです。


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さて男子。最近では高橋君がダントツで音楽表現にたけていると思います。しかし、自由度の高かった旧採点の方が音楽に合ったプログラムを作りやすかったのかもしれないと思っています。旧採点の男子で名プログラムといえば、ヤグディンの「Winter」でしょう。若かりし頃のモロゾフの振付けです。とくにこのスケートカナダでの演技は、音楽との調和という意味では五輪よりいい演技です(ジャンプは五輪の方が美しいけれど、微妙に音ずれしちゃったのよね~)。


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ヤグディンは音楽の表現者でありながら、心の表現者でもあったと思います。数々のヤグディンの演技は、人々を惹き付けてやまないのですが、私がもっとも惹き付けられ、失敗があるのに尚、心にぐっと迫ってくるのもがあるのが、2001年12月、カナダのキッチナーで行われたGPFのグラディエーターです。失敗して、1位にはなれないと薄々分かっていながらも跳んだ終盤の3F-3Sのジャンプシークエンス、何度見ても鳥肌が立ちます。


この時点で、プルシェンコに負けはしましたが、ジャッジ1人の差なのです。明らかにヤグがミスしているのに。プルは納得いかなかったかもしれません。それほどまでにジャッジにも訴えかけてくるものがあったのでしょう。そして、これで勝負が決まりではなく、当時行われていたスーパーファイナルという、フリーを2種滑るルール(なんてタフな企画…)にのっとり、2つめのフリーでヤグディンはとうとうプルシェンコに勝つのです。そしてソルトレイクの金への階段を上って行きました。


★★★



新採点になってからはどうでしょうか。女子ではキム・ヨナの「あげひばり」や真央ちゃんの「幻想即興曲」が音楽表現でいいかなって思うのですが、長くなりそうなので割愛します。男子で、私が「おお!これぞ音楽の表現者!」と思えるのはバトル。





とくに、↑この「アディオス・ノニーノ」は、ジャンプの着氷のタイミングはもちろん、スピンのチェンジエッジでさえ音楽にぴったり…(これにはたまげます、ポジションを変えるのはともかく、チェンジエッジまで音に合わせるなんて…)。ステップに入る前にグーっとのびるところもそうだし、踏み方も音楽にあっている。新採点になって、様々な規制が発生し、音楽に合わせることより、エレメンツを決められた通りに滑らなくてもいけない中で、このプログラムは神プロといってもいいかもしれません。特にこのカナダ選手権の演技が音楽と合致しています(他のはちょっとずれています)。


新採点では他に、ランビエールなんかも音楽表現にたけていたと思います。そ・し・て、最後に中野友加里選手ですが、私にとっては、心で滑るスケーターです。特に、優勝したNHK杯で舞った「アメージング・グレース」は私にとってもお気に入り。もちろん、中野選手が滑ったプロは全て好きですが、やはりファンになった原点のこのプログラムが大好きです。


以上、長く語り過ぎちゃいました。たまにまたスケートのこと書くようにします…。シーズン中だし。ちなみに、中野選手が引退してしまった今は、長洲未来選手を応援しています。疲労骨折が心配ですが、次のエリックトロフィーは大丈夫でしょうか。「SAYURI」は中野さんのが一番好きだけど、長洲選手のもクリーンに滑れば結構いいプログラムなんじゃないかな、なんて考えています。


(*1)01-02シーズンに、カナダのサレー/ペルティエ組が五輪用に用意していたのも、蘭の花をモチーフにした第2楽章のみからなるフリーでしたが■Sale & Pelletier (CAN) - 2001 Skate America, Pairs' Free Skate)、結局「ある愛の詩」に変更、五輪で使われることはありませんでした。五十嵐さんはWFSのインタビューで、このラフマニノフは彼等には難しすぎたとおっしゃっています)。もし、ラフマニノフを滑り続けていたら、あの金メダル2つというおかしな事態も起きなかったかもしれません。っていうか、いろいろ調べてたら2人、離婚しちゃったんですね…(爆)。
浅田真央の「前奏曲嬰ハ短調~鐘~」を初めて見た時、正直、期待はずれだった。演技の内容以前に、曲の編集に疑問をいだいたのだ。もともと私は、この曲が好きだ。この曲をピアノで聞くのが好きだった。確かに暗く重々しい曲だ。暗いけれど、好きなものは好きだ。

しかし、浅田真央が使用したのは、オーケストラ版に編曲されたもので、さらに、楽天ブログ(本館)によく来て下さっているsergeiさんがおっしゃるように(トラックバックをお送りさせていただきました)、中間部がほとんど使われていない構成に編集されてしまっていた(注1)。この楽曲の大切な部分が失われていると思った。まるで、「大事な調味料を入れ忘れた料理」のようなプログラムだと、そう思った。

オリジナルのピアノ版よりも荘厳で重厚感も溢れるオーケストラ版は、その荘厳さん故に浅田真央のイメージがぴったりとハマっていない(あるいは、あてはめることができていない)と、違和感を感じた。もともと軽やかな曲調が彼女に合っているので、一番自分に合っているプログラムで勝負に挑むのが、五輪の年にはいいのではないかと。

それでも浅田真央はこの「鐘」で勝負に挑むという。今までとはひと味も二味も違った切り口で新しい表現を開拓し、それを最高の舞台で披露したい、そんな大きな挑戦である。自分の得意分野で勝負することがいいのか悪いのか、新しい境地を開拓する挑戦が、安全なのかリスクを負うことなのか、どこに重きを置くかで変わってくる。

結果だけに重きを置いて見れば、得意分野で勝負するのが要領が良く、近道だろう。反面、いつもの自分とは違う自分を見てほしいという思いに重きを置くとすれば、その挑戦を乗り越えられた時、勝敗以上に、多くの人々を感動させることができるはずで、さらには結果も後から付いてくるのではないかと思うのだ。つまり、真央ちゃんがこの曲を自分のものにすれば、結果も後から付いてくるのではないかと(あくまで希望で、結果も付いてきてほしい)。



今回のロシア大会は残念な結果に終わったが、ジャンプさえきちんと入れば、それなりのプログラムになってきているような気がした。音楽との調和も以前よりよくなってきているように思う。結果5位にはさすがにショックを受けたけれども、ロシア大会の演技を見て、プログラムが悪いとは思わなくなった。単に私がプログラムに見慣れただけなのか、本当に良くなってきているのか分からないけれど、全体の印象は進歩しているように見えた。

★★★


面白いことに、「鐘」は逆さまにすると、「杯」の形になる。五輪で頂点に立ったものに授与されるのは金メダルであって杯ではないが、杯は“勝利”の象徴である。また、オーラソーマのボトルの 69番「鳴り響く鐘」の上下逆バージョンは、77番「カップ」(=杯)である(注2)のも興味深い。

B69&B77
69番も77番も、すべての色を含んだ「クリア」と「マジェンタ」から成るボトルである。クリアは虹の7色をすべて混ぜた色、全ての色が含まれる。また、ゲーテは『色彩論』で、マジェンタを「見えざる色」と呼んだ。とても神聖な色だ。こちらもまたすべての色を含む。そしてエキシビション「カプリース」で着ている衣装(マジェンタ+ディープマジェンタ)の色の組み合わせを、彼女自身“真央カラー”という呼んでいる。偶然にも、真央ちゃんはマジェンタ(濃いピンク色)が好きな様子。

「鐘」で、「杯」(←今回は金メダルだけど)を獲得し、挑戦を乗り越えることで人々を感動させる演技ができるように、これからも真央ちゃんを応援し、そして、温かく見守っていきたいと思う。

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(注1)中盤のシットスピンの辺りでほんのちょ~っとだけ使われています。

(注2)不思議なことに、77番カップをネガティブな意味でとらえたとき、“完璧主義に陥るがために、どんなに頑張っていても満たされないと思ってしまう”という意味がある。この辺が偶然にも真央ちゃんのスケートに対する情熱さ故の苦悩に符号するかもしれない。

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【トラックバックさせていただいた記事】
 ジャパンオープン2009 Vita Cantabile by sergeiさん

【参  考】
 調性と色彩と情緒イメージ のコメント欄(sergeiさんによる「鐘」のエピソード)



ロシア杯が始まる前に記しておきます。先週末のエリック・ボンパール杯(以下、エリック杯)の中野さんの「火の鳥」、その2週間前のJAPAN OPENよりもかなり進化しているように見えた。JAPAN OPENはどっちかというと、肩を痛めてしまったがゆえに、初戦ということを差し引いても、満足のいく演技ではなかっただろうし、予定通りにいかなかった部分も多かっただろうから、進化したように見えるのも当たり前かもしれないが、それでも所々に進化が見受けられたような気がした。





まず、腕の振付け。前半のスピーディな音楽に合わせた腕の振りは、音楽にぴったりとはまっている(動画2:32~2:40あたり)。両腕を曲げて胸の前で重ねてウネウネさせる動作は、転倒してしまったジャパンオープンでは1つしか入っていないけれど、どうやら本来は2回入るらしい(動画2:38あたりと、4:13あたり)ことが分かった。この振付け、ジャパンオープンの際には私は印象に残らなかったのに、今回は妙~に印象に残っている。

ジャパンオープンで入れことができなかった部分の振付け、ちゃんと入ることでプログラム全体の印象をもガラっと変えてしまうのだなあ~。もちろん、他の部分の音楽との調和もかなりよくなってきているように思う。冒頭のトリプルアクセルをダブルアクセル×2のシークエンスに変えて望んだ際は、ザンっ!の音にあわせて着地するのではなく、2つのアクセル共に、ジャンプを踏み込む前のタメ?の1拍にザンっ!の音がピタリと合っていて、これもまた今回の演技が音楽と調和しているように見えた要因だ。

次にちょっと細かいところ。スパイラルの時の顔の位置。Y 字スパイラルの箇所では腕ごしにジャッジの方を見るところ(たぶんジャッジの方見ているとおもうんですが、ずれていたらすみません)、あの部分もジャパンオープンの時よりもしっかり顔と目線を向けることが出来ていると思う。もしかすると単なるカメラワークのせいっていう感じもするといえばするが…。

最後、ステップについては進化の感想と疑問点を提示して、次のNHK杯を見る予定でいる。理由、次から長くなります。以下が、ジャパンオープン時のステップと、エリック杯を比べたもの。エリック杯の方が数テンポ早く動いていることが分かります。

~☆。..:*”★いちごミルク紅茶★…別館-yukari_step2

私個人の見た目の印象としては、エリック杯の時の方がよく音楽に乗れていて、軽快にステップを踏んでいるように感じた割にレベル2の判定、ジャパンオープンのレベル3よりも1段階低い評価(しかし、加点をもらってはいる)で、1点弱点数を損してしまっている。エリック杯の方が軽快だったのではなく、初戦のジャパンオープンの方が、焦らず丁寧に踏んでいるという見方をすることもできる。

ここで一つの疑問が生じる。というのは今回の中野さん、ステップに入る前になんだか焦っているように見えるため。焦っていてサルコウの着地が乱れてしまったのか、サルコウで着地が乱れたから焦ってしまったのか、どちらなのかは分からないが、私には「あ、早く次のステップにうつらなきゃ」って思っているように見て取れた。

ジャパンオープンの時よりも後半のコンビネーションジャンプの数が減っていて(3フリップからのコンビ、前半で成功していたので後半は単独)、さらに3連続コンビネーションも今回はやっていないので、初戦よりも、演技が音楽より、かなり早く進んでいる。したがって、あんなに焦ることないのになあ~・・・と、思うと、もともとどこにどの音を当てはめようとして演技しているのか、謎に包まれてしまう。もし、本来の予定通りに、3連続を飛んでいたとしたら、エリック杯のステップの入りには間に合わないのではないだろうか。

この辺を次のNHK杯で注目してみてみようと思う。全体的なプログラムはまさに進化中。中盤のドーナツスピンも最後のアップライトスピンも、早い早い!さらに早い動きをビシっとポーズを決めて止まるところは、中野さん本来の攻撃的なスケーティングがいい意味で強調されていて、音楽にもあっていて、特に好きな部分だ。NHK杯が楽しみになってきた~。

そして今週末はロシア杯。真央ちゃん、SPを「カプリース」に変更との噂が…。うん、あれはいいと思う。そして安藤さんのフリーも楽しみ。プルシェンコの点数がどのくらい出るかも楽しみ。