「版」と「見出し項目」の関係で、ちょうど反対の話もあります。

 

 『三省堂国語辞典』 第六版 2008年1月10日発行 1560頁

 『三省堂国語辞典』 第七版 2014年1月10日発行 1698頁

 

 佐々木健一 『辞書になった男』 文藝春秋社 2014年2月10日発行

 

 この『辞書になった男』は、『新明解国語辞典』の主幹であった山田忠雄と、『三省堂国語辞典』の主幹であった見坊豪紀、二人をめぐるノンフィクション作品ですが、上記の発行年月日を見る限り、『三省堂国語辞典』第七版とどちらが先に発行されたか、微妙なところがあります。この点について、二つの語を取り上げて検討します。

 

1 「ワードハンティング」

 ーここから引用ー(『辞書になった男』280頁より)

 取材の終盤、飯間さん(私注『三省堂国語辞典』第七版の主幹)から一通のメールが送られてきた。

 「残念ながら、今回の改訂(『三国』第七版)で【ワードハンティング】の項目は削ることになりました。『一般にほとんど使われることがない』と判断したからです。見坊先生の思い入れのあることばですが、やはり辞書は第一に利用者のためのものという(これは見坊先生以来の)考え方によります」

 ーここまで引用ー

 

 第六版まであった言葉も、頁数が増した辞書で在りながら容赦なく捨てられる例と言っていいでしょう。

 

2 「んんん」

 この語も見坊豪紀の思い入れのある語です。特に『三省堂国語辞典』の最後を飾る「見出し語」であり、加えて、英語の辞典の最後「ZZZ」と対応しているとして、第六版まで立項されていましたが、第七版では「んーん」に書き換えられました。

 ところが、この『辞書になった男』では、このように書かれています。

 

 ーここから引用ー(『辞書になった男』276頁より)

 確実な証拠を複数押さえて、『三国』第三版から辞書の末尾に【んんん】を加えた。

 

 これで英語の辞書のおしまいの項目「Z Z Z」と釣り合いが取れることになりました。(見坊豪紀著『ことば さまざまな出会い』)

 

 以後、【んんん】は、必ず、『三国』に載る最後のことばとして、現在まで引き継がれている。

 ーここまで引用ー

 

 【ワードハンティング】も、【んんん】も、『三省堂国語辞典』第七版には「見出し項目」になっていません。

 そして、『辞書になった男』では、【ワードハンティング】は「見出し項目」にならなかった理由を説明していますが、【んんん】は、誤った記述になっています。(この『辞書になった男』は、後に「文春文庫」に入りましたが、この誤りについての説明はまったくないことも付け加えておきます。

 

 「版」によって、内容がどんなに変わるものか、あるいは変わらないものか、もう少し書き続けるつもりです。