近くの公立図書館に、他の本を探しに行って見つけたのがこの本でした。

 松本武夫『井伏鱒二「宿縁」への眼差』

 たまたま、唱歌「海」をテレビで視聴して、その三番の「ウミニ オフネヲ ウカバシテ」(岩波文庫『日本唱歌集』より)の解説に興味を覚え、「『ウカバシテ』は、備後方言では、普通の表現だよね」老妻と語り、「井伏鱒二は平気で書いているよ」といったのが、その始まりでした。

 

 この『宿縁』の第二部の題は、「丹下氏邸」校異・書誌でした。

 そして、井伏鱒二の初期の傑作『丹下氏邸』の文を分析していたのです。

 

 ① 筆者の原稿  ② 出版社による翻刻  ③ 出版 という手順を経て、我々読者の前に現れるのですが、「校異」というのは、その現れ方の違いを明らかにする作業のことのようです。これについて、この本にはこう説明しています。

 

 ーここより引用ー

 「校異」は、後に記す「書誌 『丹下氏邸』収録本」のうち、A自筆原稿「老僕のゐる風景」・B《初出》「丹下氏邸」(昭和六年二月「改造」)・C《初収》「丹下氏邸」(昭和六年八月『仕事部屋』春陽堂刊)・D《全集》「丹下氏邸」(昭和二十九年九月『井伏鱒二全集』筑摩書房版)・E《自選全集》「丹下氏邸」(昭和六十年十月『井伏鱒二自選全集』新潮社刊)を対象とした。

 尚、平成九年二月に『井伏鱒二全集 第三巻』(筑摩書房刊)に収録されたが、昭和六年八月春陽堂刊行の『仕事部屋』に収録された《初収》版(C)を底本としているため、「《初収》(昭和六年八月『仕事部屋』(C)と同一である。但しその『井伏鱒二全集 第三巻』(筑摩書房版)は、新字体・旧仮名遣いとなっている。

 ーここまで引用ー

 

 随分回りくどい言い方になっているが、要は、A~Eの版を取り上げて比較する(校異)ということであり、その際、井伏鱒二死後刊行された最新全集は、「C」を「底本」としているので、「C」を参考にせよということです。

 

 そこで「『丹下氏邸』校異」という表に移るわけですが、その「項目名」A《自筆原稿「老僕のゐる風景》・B《初出》「丹下氏邸」(昭和六年二月「改造」)(平成九年二月『井伏鱒二全集』筑摩書房刊・C《初収》「丹下氏邸」(昭和六年八月『仕事部屋』春陽堂刊)・以下略しますが、よく見ると、井伏鱒二死後の最新全集が、Bに含まれていることになっているのです。

 

 すなわち、前ページの説明とまったく異なっているのです。事実を検討すると、やはりCに含まれることが明らかになりましたが、こんないい加減な「校異表」は信用できないでしょう。

 

 また、じーじの悪口が始まったと孫には文句を言われそうですが、「無理題に遊ぶ」という「テーマ」に免じて許してください。

 

《註》 文中の記号A~Eは便宜上わかりやすくするため、ブログの書き手が勝手につけたものです。ご了解ください。