この種の本は、普通、次の段階を踏んで市販されます。

 Ⅰ 週刊誌など、雑誌に継続的に発表される

 Ⅱ それを、例えば一年毎に集めて、単行本として刊行

 Ⅲ それらの反響を見ながら、文庫本になる

 Ⅳ 単行本の別巻として継続的に本になる

 

 この高島俊男の『お言葉ですが…』は、このすべての段階を経て出版されたまことに稀有な「本」ということができそうです。

 

 少し、説明を加えます。

 

 ① この『お言葉ですが…』の前身である『本が好き、悪口言うのはもっと好き』は、1994年12月に単行本にまとめられました。

 ② 『お言葉ですが…』の最初の一篇「水もしたたる美女四人」は、「週刊文春」に1995年6月に掲載されました。

 ③ 以後、文庫は10巻「ちょっとヘンだぞ四字熟語」まで、第11巻は出版社も文藝春秋社から連合出版に変わり出版されました。

 ④ その後の「お言葉ですが…」は、別巻として、現在第7巻まで連合出版より刊行されています。

 

 この数奇な運命をたどった『お言葉ですが…』が、私の若い国語教師にすすめる第二番目の本です。

 

 どの項目を取り上げても面白いのですが、今、『お言葉ですが…』の第一巻の適当な所を開くと「みづほの国の元号考」というのにぶっつかりました。

 

 折しも、「平成」が終って、次の元号へとみんな注目しています。

 

 この原稿は、1996年2月1日に発表されました。平成8年ですが、「平成」という元号について、くわしく説明、批判しています。

 

 私は、これを読んで、当時のことを思い出しました。その時の勤務校で、日本史を教えていた若い教員に、これまでに使われた元号でもっとも多い漢字は何か?、また、「平」は何回ぐらい?、「成」はどう?

 

 あの元号で、「成」が「平成」で初めてだということに、この若い日本史の教師はびっくりしていました。

 

 なに、私は、この「お言葉ですが…」を読んで、驚かせただけです。

 

 ついでだから、少し長くなりますが、その項の最後を引用しておきます。

 

 ーここから引用ー(『お言葉ですが…』文庫版214頁)

 たとえば「みずほ」。ゆたかにみのったみづみづしい稲穂。日本の宝である。「豊葦原の瑞穂の国」はもちろんわが国の美称である。「みづほ元年」なんてすてきじゃないか。

 あるいは「あきつ」。これも「あきつしま」(秋津島、秋津洲)は日本の美称。あきつはトンボでもあり大和の地名でもある。トンボの群れ飛ぶ国、というのも美しいイメージだ。

 あるいは「やくも」。幾重にももりあがる雲。これは勢いがよい。須佐之男命(すさのをのみこと)の「八雲立つ出雲八重垣」である。

 まだまだいくらでもあります。どれをとっても「ヘーセー」なんぞよりどれほどいいことか。

 ……と投書したのであるが、もちろんどこも相手にしてはくれませんでした。

 ーここまで引用ー

 

 どうですか。こんな文章が数百篇、すばらしいでしょう。

 

 勿論、「索引」は、第11巻に付いています。