教師を長年続けたせいか、最近、「還暦」…「喜壽」などの長寿言葉を使った同窓会に招かれることが多くなりました。「 うーん、日本人の寿命が長くなったからかな」とつぶやきながらではありますが、悪いことではないのでできる限り参加することにしています。

 ところで、先日書いた 『ことばの歳時記』十二月二十六日は「白寿」という「テーマ」でした。その中の一部を引用します。

 ーここから引用❶ー
 
 「古稀」の上には、七十七歳の「喜壽」、八十八歳の「米寿」というのがあるが、日本人の平均寿命の延長によってその上のお祝いが必要になった。見坊豪紀氏の採集によると、このごろでは、九十歳の「卒寿」、九十九歳の「白寿」というのも出来たようだ。なるほど「九」と「十」をつけて書けば、「卒」という字の略体になるし、「百」から一をとれば「白」になるにちがいない。そのうちには百十一歳を祝う「川寿」などというのもあらわれるかもしれない。

 ーここまで引用ー

 この文中、太字「このごろ」とは、「1965(昭和40)年」頃のことです。金田一春彦は、用例採集に夢中の見坊豪紀から、この「卒寿」の用例の話を聞いたということのようです。

 そして、この数年後、金田一春彦は、父、金田一京助の「卒寿」の挨拶状を、知人(見坊豪紀など)に送ります。

 ーここから引用❷ー

 ところで、老父(金田一京助・稿者注)もことしは数え年九十歳、おかげ様で卒寿とやらを迎えました。(金田一春彦 あいさつ状 1971(昭和46)年4月20日)

 ーここまで引用ー

 ここまで読むと、なるほどと納得するわけで、❶と❷はまったく矛盾せず、私も何も思いませんでしたが、次の見坊豪紀の文章を読んで「あれっ」と思いました。

 ーここから引用❸ー

 「こういうわけで、1964(昭和39)年現在で、私は知り得た長寿用語八つのうち、〝半寿〟(80歳説)〝卒寿〟以外の六っを押さえていた。(中略)
 〝卒寿〟の用例は次のとおり。
    ところで、老父もことしは数え年九十歳、おかげ様で卒寿とやらを迎えました。(金田一春彦 あいさつ状 一九七一年四月二〇日)
(保健同人社刊「暮しと健康」一九八二年六月号より)

 ーここまで引用ー

 ❷と❸のうち、金田一春彦の知人に送った「あいさつ状」は同じものだから、❸を信用すると、見坊豪紀は、「卒寿」の用例を最初に採集したのは、金田一春彦の「あいさつ状(1971(昭和46)年)」ということになります。

 まとめると次のようになります。

 ○ 金田一春彦は、『ことばの歳時記』で、1965(昭和40)年頃、見坊豪紀から〝卒寿〟の用例採集の話を聞いたと書いています。

 ○ 見坊豪紀は、〝卒寿〟の用例を最初に採集したのは、1971(昭和46)年の「金田一春彦の〝あいさつ状〟だ」と書いています。

 さてさて、どちらが正しいのか、そこで、「〝卒寿〟の用例を教えて下さい」というブログを書いたのです。

 いくつかコメントをいただきましたが、結論として、どの用例も新しく、1960(昭和35)年~1965(昭和40)年ごろの「卒寿」の用例の報告は見つかりませんでした。

  三省堂が保管している「見坊カード」145万枚を見れば、恐らく解決するはずですが、その手段を残念ながら持っていません。

 誰か、「見坊カード」に本気で取り組む大学生などはいないものでしょうか。