今年のセンター試験の古文、問6について、「『草子地』という解釈も成り立つ」と書いたら、「草子地」とは何かという質問が来たので、私のわかる範囲で答えることにします。


 【草子地】 物語・草紙などの中で、説明のために作者の意見などが、なまのままで述べられている部分。(小学館版『日本国語大辞典』)


 次の文章は『源氏物語』、「賢木」の巻において、桐壺院(院)がわが子朱雀帝(うち)に対して遺言するところである。これを読んで後の設問に答えよ。


 院の御なやみ、神無月になりては、いと重くおはします。世の中に惜しみきこえぬ人なし。うちにも思しなげきて行幸あり。弱き御心地にも、春宮(桐壺院の皇子で、後の冷泉帝)の御ことを、かへすがへす聞こえさせたまひて、次には大将(桐壺院の子、光源氏)の御こと、

「(中略)」

と、あはれなる御遺言ども、多かりけれど、女のまねぶべきことにしあらねば、この片はしだにかたはらいたし


【現代語訳】 桐壺院のご病気、十月になってからは、まことに重くていらっしゃる。世間で残念にお思い申し上げない者はない。朱雀帝におかせられてもお嘆きあそばして(桐壺院に)行幸なさる。桐壺院はお弱りになった御心地の中にも、春宮の御事をかえすがえすお頼み申し上げなさって、その次には大将の御事を、「(中略)」

と、いろいろ心にしみるご遺言が多かったが、(政治に関するような事柄は)女の語るべきことではないので、ここに一端を漏らすことさえも気がとがめる。


【問題】 Ⅰ 傍線部「まねぶ」は誰の行為か。最も適当なものを一つ選べ。

  1 院(桐壺院)   2 うち(朱雀帝)   3 春宮(冷泉帝)   4 大将(光源氏)   5 物語の語り手


 Ⅱ 傍線部「この片はしだにかたはらいたし」の現代語訳として最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1 この遺言の片端でもよいから聞きたいものだ。

  2 ここでその片端を口にすることさえ悲しいことだ。

  3 ここに片端をもらすことさえ気がとがめる。

  4 この遺言はほんの片端でさえ道理にかなっている。

  5 この遺言にはその片端にも愛情があふれている。

                                                       (1987 立教)


【正解】 Ⅰ 5   Ⅱ 3


【解説】 「女のまねぶべきことにしあらねば、この片はしだにかたはらいたし。」が「草子地」です。作者が感想をなまのままのべているわけです。勿論敬語は使われていません。そして、心情表現(この場合「かたはらいたし」)がそのままの形で表現されています。当時の女性は政治向きのことに触れるのは、遠慮すべきだという考えがあったので、作者がそれを代弁していると考えられます。草子地には心情表現が多く出て来ますが、それが何に対するものか、補って考える必要があります。ここでは、「政治に関するような事柄」です。

 かたはらいたし=きまりが悪い。気がとがめる。心苦しい。