先日、『読売新聞』に大きく載った、今年の古文に『源氏物語』が出題されたことを、このブログで報告しましたが、2月12日『朝日新聞』の「天声人語」でも取り上げられました。


 「(前略)▼1次試験にあたるセンター試験で、今年もまた国語が話題になった。去年は平均点が過去最低に沈んだ。今年はさらに下回り、200点満点で98・67点と初めて5割を切った。源氏物語が難しかったという声がもっぱらだ。▼(中略)▼去年は批評家の小林秀雄の難文が原因とされた。その際、作家の故丸谷才一さんが過去に、小林の文は入試には出題するなと評していたことが話題になった。飛躍が多く、語の示す概念は曖昧(あいまい)、といった理由からだ▼国語論でも知られた丸谷さんは、源氏物語からの出題も非常識だと、かつて本紙に寄せていた。語法的にも題材的にも高校生には難しすぎる。あんなややこしい恋愛はわからないのではないか。そんな趣旨だった。▼2年連続に、泉下(せんか)の丸谷さんは苦笑いだろうか。むろん小林についても源氏についても、その偉大さを認めた上の苦言である。古典は大いに読ませるべし。ただしあまり難しくないものを。そんなふうに故人は言っている。」


 このブログで、センターの直後に、大野晋さんの「源氏物語を教えるな」という言葉を紹介しました。そして、結果が出た今、丸谷才一さんの言葉が紹介されたとあっては、それをきちっと書いておかなくてはなるまいと考えた次第です。


 丸谷才一さんは1983年5月30日の「朝日新聞」、「古典を読ませよう」という文章に次のように書きました。

 「しかし古文とは言ってもあまりむずかしいものは読ませなくてもいい。私は今度、念のため高等学校の教科書にも目を通したのだが、『源氏物語』や『大鏡』が載ってゐるのには驚き呆れた。せいぜい『徒然草』と『方丈記』を読みこなせればそれでいいのに。
 『源氏』に話をしぼって言へば、あれは語法的にも題材的にも高校生にはむづかしすぎる。あんなややこしい恋愛が二十歳前の子供にわかるやうになったら、大人は何をしたらいいのか見当もつかないし、色恋にかかはりのないところはあまりおもしろくないのがあの物語なのである。何しろ大学の入試問題に『源氏』が出るのでやむを得ないといふ噂を聞いたけれど、そんな出題は非常識である。そもそも出題者自身、あの恋愛がわかるのかしら。あの語法が、とは敢へて言はないけれど。」

 「あの語法が、とは敢へて言はないけれど。」という結びの皮肉。


 本当に的を射た評言と感心しました。


 センターの関係者は、厳しく総括すべきでしょう。